毛利元就/あわよくば ページ1
「もういいよ、別れよう」
何がもうよいのだ、などと。
目の前で静かに涙をながす女に、どうすれば言えようか。
我の前ではいつも感情を曝け出さないこの女は、ここまでしても未だ抑え込んでいて、家に帰ったら今以上に泣くのであろう。
よもや、われが悪いことなど分かりきっておるわ。
音楽に触れているときの貴方の表情が好きです、と告白されたのはたしか、2年前の秋のことだった。
我と同じ吹奏楽部のこの女は、当然部活のときのスパルタな面も知っているはずで、今までの告白してきた女共のようにただ顔だけを見て言い寄ってきている訳では無さそうだった。
そのとき、我は今までと同じく即座に振ることなく、あろうことか、付き合ってください、と俯く彼女から発せられた消え入るような声に、ああ、と小さく返していた。
――――ああ、愚かなことをした。
あのときから、我はこの女――Aに情を許してしまっていたように思う。
どうすればよいか解からず、眉をしかめる。
知性を誇るこの脳漿も、Aの事となると、露ほども働かぬ。
もう最悪長曾我部、貴様でも良い。どうすればよいと頭の中で知り合いに聞いても、テレパシーが使えるわけでもなく、答えなど浮かんでこない。
――――情などと、と。言ってしまえれば、切り捨ててしまえれば、どんなに楽だろう。
ひとしきり泣いて、落ち着きを取り戻したであろうAが立ち上がる。
じゃあ、と呟きほどの声が静寂に響いた後、ドアノブに白い手がかかった。
我は無意識のうちに立ち上がっていて。其れと同様に掴み引っ張っていた、細い手首。
倒れこんできた温もりを、腕に確と包み込んだ。
耐え難い沈黙が、数秒続いた後、またも彼女の嗚咽が木霊した。
いまだすすり泣くAの腕が我の背に回されることはなく。
くい、と彼女のストレートの黒髪をひっぱると、顔を上げたAの恨めしいような色を含んだ目と我の目が合う。
チュ、と唇が触れ合ったのは、極短い間だけだった。
わざとらしいリップ音に、Aが赤面する。
「ずるい」
「A、愛しておる」
ゆっくりと、Aの腕が、香りが。我を包み込んだ。
ああ、そんな表情ををみせるのも、其の涙を拭うことが出来るのも。
あわよくば、我だけで。
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希望(プロフ) - 失礼します!リクエスト、させて下さい!良かったらですが、政宗様のお話をリクエストしたくて…学バサの方でリクエストしてもよろしいですか!!? (2017年6月8日 19時) (レス) id: f217a178dd (このIDを非表示/違反報告)
椿(小石の方)(プロフ) - 舞姫さん» はい!了解です。前の黒丸様と順番がゴチャゴチャになってしまうかもしれないのでご了承下さい。 (2017年4月1日 12時) (レス) id: 2a1e88c7e9 (このIDを非表示/違反報告)
舞姫 - リクエストでーす!えっと……竹中半兵衛様。明智光秀様を、出来たらでいいので、お願いしま~す。 (2017年3月25日 10時) (レス) id: f50ff2d6e1 (このIDを非表示/違反報告)
椿(小石の方)(プロフ) - はい!返信遅くなり申し訳ございません!別々で作らせていただきます。何かあればまた仰ってください (2017年3月23日 0時) (レス) id: 2a1e88c7e9 (このIDを非表示/違反報告)
黒丸 - リク良いでしょうか。弁丸、梵天丸、アニキお願い致します。 (2017年3月19日 22時) (レス) id: 892b25096f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿(小石の方) x他1人 | 作成日時:2016年6月27日 18時