【名探偵コナン】もう一人の名探偵【劇場版限定】プロローグ

出会い　工藤夫妻篇 ページ6

『すれ違う時…ほんとに微かにですが、おねーさんからカレーの匂いがしたんですよ。香水で上手に隠されていましたし、普通にしてたら誰も気づかないと思いますが。まあ、ハワイ…いや、ハワイだけでなく海外に長期滞在していれば、ご当地グルメより、カレーなんかも食べたくなりますか』
「長期滞在？」

男性が少し怪訝な顔をした。まるで『なぜそれを？』とでも言うように。

『えぇ。これもまたすれ違う時、おふたりの会話が聞こえまして。『今度はどこへ行くの？』『次の話が、ロンドンが舞台なんだ』ってね。おにーさん、作家さんでしょ。右手の指、ちょっとペンだこできてるし、Tシャツの胸ポケットにはペンがささってる。ズボンのポケットにはメモ帳も入ってるでしょう？多分、ネタを書くためのもの。そしておねーさんが言った、『今度は』という言葉』

Aは淡々と語り続ける。

3人が立ち止まっている歩道は浜辺から少し高い位置にあった。下の浜辺からは海で遊ぶ観光客の声が聞こえる。

『今までも外国で過ごしてきたんですよね？おねーさんの質問に、おにーさんは『次の話』の舞台を教えてた。ってことは、外国に行くのはおにーさんの取材旅行ですね。それならある程度長期滞在するだろうし、次の国の話をしてるのは、ハワイにいる必要はなくなった証拠。つまり…』

言葉を切り、男性をじっと見据えた。

『ハワイでの話がまとまるくらいに長く滞在している―――違いますか？』

Aはふっと笑い、少し首を傾げた。肩につくかつかないかの短い髪が揺れる。

「はっはっは！」

男性は『堪えきれない』といった感じで、声を上げて笑い出した。

「…面白い子だ。まさか少女に言い負かされるとはね。その通り、私は作家だし、ハワイにはもう2ヶ月は滞在している。家内はさっきカレーを食べたばかりだし」
「もうっそのことばっかり言わないでっ」

また、女性が照れたように笑って男性の横腹を肘でつついた。

この2人は夫婦だったようだ。ふと思い出したように、男性が口を開いた。

「ところで、君…名前は？見たところ中学生くらいだが、何者なんだい？」

Aはニヤ、と口角を上げた。

ふわりと優しい風が吹き抜ける。彼女の後ろ髪より5センチほど長く伸ばした横髪が、大きく揺れた。

『中屋A―――ただの探偵ですよ』

―――
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