and you ページ11
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「ていうかオレ泣きすぎだよね」
「まあ……ハイ(笑)」
「ティッシュ…」
「もうないよ、」
「ゴメン…ちょっとトイレ…、(笑)」
相葉くんは、智みたいに、泣いた後に不機嫌を持ち越したりしなかった。
高校生だから当たり前なんだけど、その爽やかさが、心地よかった。
またチャイムが鳴って、6時間目も授業をサボることを、櫻井先生は無言で許してくれた。
泣き腫らした相葉くんがトイレに出るとき、うおっ、と大げさにびっくりして、教師の顔で、頭を撫でていた。
「もういい?」
優しく笑って入ってきた先生は、はぁ〜とくたびれたような わざとらしいため息をつき、「廊下に立たされるって案外大変なんだねえ」としみじみと言った。
「……しっかり聞いてたんでしょ」
「お?バレてる?」
「盗み聞き。それとも地獄耳?」
「どっちもかなぁ」
「趣味がわるい、」
「アハハ(笑)」
「先生って悪魔なんですか?」
「どちらかと言えば天使だよ。白いでしょ?」
「…もしかして元ヤン?」
「…、…さあ?」
軽口を叩いた割には、やけに切ない目をして、先生は智の頬を撫でる。
細くて整った指がするりと動いても、智の表情は変わらなかった。
ほんとうに、生きているのだろうかと心配になる。
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「聞いたところで…、なーんにも…できねぇけどなあ……」
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櫻井先生が、そんなふうにくだけた言葉を使うと、あ、と思う。
やべ、とか、まじか、とか。
いつもの、教師らしい口調じゃなくて、ぽろりと出る、兄のような、親しみのある言葉づかい。
教師の顔じゃない櫻井先生は、なんというか、見ものである。珍しくて、ちょっと嬉しい。
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ふいに、ぴくりと智の瞼が動いた。
「智…、」
相葉くんの話を聞いている間、ずっと握っていた手を、確認するように握り直す。
重そうに、気だるげに瞼が開いて、焦点の合わない視界のなかに、俺を捉えると
やっぱり、ヒクっと身を引きつらせて恐怖した。
「…う、…」
疫病神と、言われて
智は、疫病神が何のことか、分かったのだろうか。
大切にしたいものが、自分の隣で壊れていくという感覚は、いったい
どれくらい、痛いんだろう。怖いんだろう。
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繋がれた手が、今にも解けそうになって
俺はいそいで、なるべく最短距離で
智の身体の中で、いちばん柔らかそうな
丸い唇に、噛みついた。
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時