blood ページ12
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櫻井先生が、視界の端で 目を見開くのが見えた。
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歯で触れたら、唇は思ったよりも柔らかくて
そんなに強い力じゃなくても、ピリッと、薄い皮膚を破ることができた。
「疫病神なんかじゃない」
ぷくりと溢れた血を、舌で舐め取れば、痛みに智が眉を寄せた。
「俺が、落ちたのだって、お前のせいじゃない」
傷が小さすぎて すぐに止血してしまったので、もう一度、今度は大きく噛んだ。
ギリ、という音がした。
「でもどうしても、自分のせいにすんなら、」
今度は本当に痛かったらしく、ふっ、と、智は小さく悲鳴を上げる。
じわりと、鉄の味が口腔内に広がって不快だった。
辛うじて繋がっている手だけ、優しくやさしく触れていた。
「これでチャラにしてあげる」
ゆっくりと…顔を離すと
困惑を顔に貼り付けて、智が、は…と息を吐く。
唇にできた2か所の傷を、自分の舌でぺろりと舐めて、痛そうに顔を顰めた。
呆けたように俺を見つめ、もう、逃げ出そうとはしなかった。
怯えのない透明な瞳を、じっとこちらに向けていた。
「これ、で……チャ ラ……？」
「おあいこ、ってこと」
「…おあいこ……」
唇は、真正面についているので、あんまりにも痛々しかった。
耳たぶにすればよかったかもと思うけど、もうどうでも良かった。
「だから大丈夫」
指の背で、目の下を撫でてやると、溶けたように目を細める。
安心させたくて、智がいちばん好きな口の形で笑ってあげた。
智が大きめのカンバスに描いていた、あの口の形だ。
歯がピアノになっていて、俺の音楽が、泣いている。
泣いている音を、智がいちばん最初に、見つけてくれた。
「大丈夫だよ」
もっともっと、伝えるべき言葉はあったけど
智の心では、このくらいが許容範囲だろうと思った。
「カズ……」
冷たかった智の手が、ぽかぽかと火照ってくる。
「ねむ い……」
「うん」
「んん……」
「寝れば？」
重そうにまばたきをする。きゅ…と手を握り直したのは、智のほうだ。
「外さないで ね…」
言うや否や、3秒もたたない間に、眠りに堕ちた。
さっきよりも1億倍くらいマシな寝顔だった。
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櫻井先生が、参った…というふうに深いため息をついて
「もう俺は敵わない……二宮くんには…」
へろへろと、その場で崩れ落ちるマネをした。
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね（笑）あはは (2021年5月6日 18時) (
レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです！読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント！？とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました（笑）とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´；ω；`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵！現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きんにく
| 作成日時：2020年6月7日 0時
