ピアニッシモ5 【O/N】[ARS]

neglect ページ24

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「もう落ちないよ。千夜子ちゃんは」



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何の根拠もなかったのに、その言葉に、智はずいぶんホッとしたように力を抜いた。


「も…落ちない……」


俺の言葉が、そんなに効力を持つとは思っていなくて、少し怖かったけど

智の手が、ものすごく緊張したレースの後みたいに震えていて

そんなにも、話すのにエネルギーが要ったのか…と、胸のあたりが絞められた。



---『苦しいときは』

----『俺に教えてって言ったでしょ』



約束ともとれない、軽はずみな、その場しのぎの口約束を

今、この場で、智は果たしてくれたのだろうか。



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「あ、沈む」



ぴいん…と、夕日は 最後の光のひとすじを、空に置き去りにした。

「あ…」と智は、見逃していないのに、見逃してしまった…！というような声を漏らした。


夕日が沈んだ。

沈むと、さっきまで談笑していた空気が、シンと静まった。



「んんっ……」



誰かにくすぐられたときみたいな声が 隣から聞こえたので

夕日が行ってしまった後の、置いてけぼりの空から目を離すと


智が、昼寝の後の猫のように、寝転んで、ぐうん、と身体を伸ばしていた。

肩が、ぶるりと震えて、ふっと力を抜く。


透明な瞳が、暗くなりつつある空を、映画みたいにドラマティックに映していた。



「気持ちい……」



目を瞑って、ゆるやかな風を受ける智は、ごほっ…と一つ、あやしい咳をして

母に撫でられたように、ほんとうに気持ちよさそうに顎を上げた。


「春みたいな風吹いた、いま。…ね？智」


俺は、智といる時間が長すぎて、こんなことを恥ずかしげもなく言うようになった。

もちろん相葉くんや咲玖の前では言わない。

てゆうか、今気づいたけど、友達が少なすぎる。まあ、いいけど。



「フライングしてんだよ」

「は？」

「ひとあし先取りしてるんだって。春を」

「なに言ってんの(笑)」



【ひとあし〜先取り〜流行を先取り〜…っつって】
【まだ青いんだよね〜】


そよそよ、という春みたいな風が、鳴った気がして

え？と耳を澄ませてみたけど、空耳だったみたいだ。




「…今日はアタリ、今日はハズレ…そんな 毎 日でも…明日も進んでいかな きゃいけないのか…♪」




急に智が、どこからか連れてきた歌を歌い始めて

それはもう、気持ちよさそうに歌うので

俺もゴロンと、そこに寝転んだ。


寒かった。


だからマフラーは、つけたまま。




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ｸﾘｰﾌﾟﾊｲﾌﾟ『陽』より一部引用

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