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rely you ページ23

智の言葉が好きだ。

無垢で素直でそのままで、ちょっと常識から 外れている。


でも、「常識」というものが みんなの言葉の平均なら、誰も、常識を語れる人はいないと思う。

みんな少しずつ足りなくて、みんな少しずつ行き過ぎている。

本当は平均的な人なんて誰も居なくて、誰も居ないのに、みんな平均的であるフリをする。


そうやって溶け込むのだ。世界に。


「でももう、忘れたかな」


智は、他のことに忙しすぎて、それどころではないから、自分の言葉を そのまま使う。


だからときどき、何を言っているのか分からない。


「ん?」


『自分の言葉でいいから俺に教えて』…と、智に言ったくせに、俺は智の言葉を 半分も分からない。


「ちゃこちゃん、忘れちゃったかな…痛いのも、苦しいのも、ぜんぶ」


智は、背中に当てていた俺の手をそっと掴んで、自分の頬に当てた。

触ったらむにゅ、と柔らかかった頬肉は、微妙な柔らかさだけ残して、やっぱり しゅうっと消えてしまっていた。


「それなら良いのに」


櫻井先生の手にそうするように、智は俺の手に頬ずりして、そのまま唇につけ、

さらに自分の手でそうするように、ぐし、と目を擦った。

俺の手を動かさずに、自分の頭を、ふるふると動かした。
生まれたてのようなあどけなさだったのに、ゆるく噛んだ下唇が、妙に大人びていた。


切ないときも、嬉しいときも、照れたときも、我慢するときも、苦しいときも、いつも

智は下唇を噛む。

同じように噛むから、どれなのか、分からない。



細いまつ毛の感触が、生々しくて、鳥肌が立った。



.




「すき…」




.



その「好き」が、千夜子ちゃんに向けたものなのか

俺の手に向けたものなのか、あるいは、吹いている風、もしくは、深い色の海、空…

どれに向けたものなのか、さっぱり分からなかった。


だけど、どれもに、全部に向けたもののようにも、思えた。




.




「…来年はもう、来なくていいんじゃない?」


智の言葉を、半分も分からないくせに、俺はそう言った。

『ジャスミンの香水は振らなくてもいいんじゃない?』と言った軽さと、おんなじに

俺はそう言った。智と一緒になれなくても、智と一緒の場所に居てあげたかった。



「海。まだ、冷たいでしょ、2月は。…夏に、入ろうよ」



すう…と息を吸ったら、智の、赤ちゃんみたいな匂いがして、安心した。

よかった。ジャスミンの香水は付けてない。



「もう落ちないよ。千夜子ちゃんは」

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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時

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