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ある時、
俺がいつものように、部活で体育館に訪れると、
珍しくAが
校庭側の入り口に腰を下ろしていた。
早めに準備を終わらせたのか、
何故かぼーっと校庭を眺めている。
「よっ、」
「ひゃっ、」
俺に気がついてなかったのか、
背後から冷えた手を彼女の首に当てると、
可愛らしい声を上げて肩を跳ねさせた。
「い、衣更くん…！」
「ん、何見てんだ？」
彼女の隣に腰を下ろして、
同じように校庭を眺める。
そこでは、
いつものようにサッカー部が部活をしていた。
「サッカー好きなのか？」
「あ、いや…。」
少し俯きながら首を横に振る。
その耳が真っ赤だったのもあって、
なんとなく、気がついてしまった。
「…気になる人とか？」
まるで自分の声とは思えないような、
酷く低い声が出てしまう。
「…ち、違う。
…暇だから、見てただけなの。」
わかりやすい、嘘だ。
胸の奥が、
チクッと痛む。
俺の頭の中はいつもお前なのに、
お前の頭の中は…
俺じゃない。
そう思えば思うほど、
胸の奥がズキズキと痛むばかりだった。
「…衣更くん…？」
気がつけば彼女の手に自分の手を重ねていて。
「衣更くん、どうしたの…？」
「…えっと…。」
気がついてしまった。
俺は多分…
Aが…
だけどそんなの、
恋人がいる今言えるわけない。
恋人がいなくても、きっとそれを言う勇気すらない。
駄目な男だなぁ、俺って。
「１on１、やらね？」
彼女の手首を握って、
ヒョイッと立ち上がらせる。
そのくらいしか、咄嗟に思いつかなかった。
「私の上手さゴミ以下だけど大丈夫…？？」
「それは言い過ぎだわ！
なんかあったら俺が教えるから安心しろよ♪」
漫画みたいに、
ここでスリーを決めたら、俺の言うこと何でも聞くだとか
そういうの決められたらな〜。って思う。
そういうの、少女漫画とかでしか見ないことだけど
この状況が漫画だとしたら…
きっと今、ヒロインは微塵もドキドキしてない。
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