綾辻行人の助手2

36話 ページ4

綾「犯人は全員が生卵を混ぜた時に、被害者だけが食事を中断するように状況を操り、菌が毒素を発生するだけの時間を稼ぐ。具体的には食堂の隅に呼び、長時間指導を行ったのだ。そうして、被害者だけを殺す毒という特殊な状況を成立させた。あ他のクラスメイトは全員同じものを食べているのだから真逆自分の卵が危険な猛毒に変化しているなど思いもしない」

「じゃあ、犯人は…！」

そう誰かが云い、全員が一斉に一人の男性教諭を見た。
長時間指導__と云うか説教__を行った張本人だ。

「お…俺じゃないぞ！俺はあの時ただ…」

あ・綾「彼は犯人ではない」

私と綾辻先生が同時にそう云った。
そして私が言葉を続ける。

あ「時限式の猛毒を使った理由は完璧なアリバイを手に入れる為…被害者に一度も近付いてないっていうね。だのに説教してたらこうなった以上疑われて当然…詰まりアリバイが無意味と化す。疑うべきは…その男性教諭に『盗まれた財布が被害者の鞄から見つかった』て情報を流した人物です」

綾辻先生は聴衆の一人を指差しし、聴衆がその人物を見る。
先には何処にでも居そうな小学校教師の姿。

綾「盗まれた財布の持ち主。__君が犯人だ」

「わ…私…？」

「そんな…」

「先生が、真逆…」

先生達がそう云い、室内が三度目のざわめきに包まれた。
私は「貴方以外に誰が居るんですか」と呟き、呆れる。
__本当は一々ざわめいてる周りの方に呆れてるんですけどね。

「な、何を莫迦な。私が児童を殺す？」

男性教諭は完全に焦り乍らも引きつった笑みを浮かべ、言葉を続けた。

「ありえない！私はただの国語教諭で、菌の知識なんて…第一私が殺したっていう証拠が、何処にあるんですか！」

私はふぅっと溜息を付いた。
__犯人お決まりの「証拠見せろ」。
此れじゃあ自分が犯人だと云ってるのと同じだ。

綾「証拠ならある」

綾辻先生はその問いを予想してたのか淡々と云った。
__この人なら普通に予想してそうだ。

綾「君の靴裏に、さっと見ただけでは気付かれない針を貼り付けてた。俺が依頼で此処に来た直ぐにな。君が証拠隠滅の為、培養シャーレを裏の登山道まで埋めに行ったのかは登山道の足場についた細針の跡が教えてくれる。後を追った先でシャーレが見つかれば、言い逃れは出来んぞ」

「う…あ…」

男性教諭が気配に気圧され、一歩後ろに引いた。
この旧礼拝堂を支配していた不安と混乱、怯えは明確な怒りに変わっている。
__人って怖いなぁ。

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