45、ヨコハマの風が吹く ページ45
××
「そう、私は元マフィアだ。引いた?」
「はい」
嘘を吐いても仕方ないので正直に云うと太宰先輩は顔を歪めた。そこは嘘でも違う言葉をかけてほしかったなぁ、と困ったように頭を掻く。
「正直に述べますと大分引きました」
「……」
「そもそも元マフィアが探偵社に入社出来ることにも驚愕です」
それ以上聞きたくない、という風に太宰先輩は踵を返し、一人で歩いて行く。しかし、まだ云いたいことを云えてなかったので、更に言葉を続けた。
「太宰先輩には"今"があります。
今の太宰先輩はマフィアではありません!
今、此処にいるのは。今、私が見ているのは。
──武装探偵社員の、太宰治先輩です」
なに、それ。
太宰先輩は足を止め、振り返った。
夕日の逆光のせいで、その表情は見えない。
「君に触れることが出来たら、今すぐにでも抱き締めてるのに」
「何を仰っているのですか、先輩」
先輩はまた笑う。
本当の意味でこの人が心の奥を見せることはないのだろうなぁと思った。笑って笑って誤魔化して、絶対に自分の弱さを見せないひと。それが弱さだというのに。嗚呼、可愛そうな大人よ。
「Aちゃん、何時か私と死んでくれない?」
「おや。物騒な」
太宰先輩はゆっくりと微笑んだ。
今にも消えかけそうな、儚い美しさ。
なんとなく不安になって彼に近づく。
確かに先輩は此処にいるけれど、触れられないから実体が掴めない。視線が合う。お互い黙っていると「太宰さん!Aちゃーん!」と声が飛んできた。
「わっ、ナオミ少女!」
「探しましたわ!」
ナオミ少女が手を振りながら走って来た。
その隣にはゆるゆるのニットに身を包んだ青年もいる。
「マフィアに誘拐されたと聞きましたが、ご無事でしたか!?」
「は、はい。あっ、そういえば中島先輩は!?」
中島先輩の事を思い出し、ナオミ少女に詰め寄る。彼女は「彼も国木田さんが助け出しましたわ」と可憐に微笑んだ。
「紹介しますわ、この人が前にナオミの話した兄様ですの!Aちゃんの捜索にも協力してくださったんですよ」
「そ、そうだったのですか、ありがとうございます」
「ううん、礼には及ばな……ってナオミ、何処触ってるの!?あッ」
ナオミ少女は青年の鎖骨に触れながら、妖艶に笑う。兄妹らしからぬやり取りに思わず赤面していると太宰先輩が云った。
「帰ろうか、みんなで」
風が吹く。髪が踊る。
夕焼けに染まったヨコハマは、綺麗だった。
**
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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
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