【◇】ダメなオトナでも、いいですか？【御幸一也】

#13 ページ13

「……あの」

「何？」

「その……酔いすぎてたから、何も覚えてないっていうか」

「…………」


　眉間に、それこそ眉毛が繋がるのではないかと思ってしまうほどシワを寄せて、机に身を乗り出して迫ってくる菜穂に肩をすぼめる。


　何も言えずに黙りこくって視線を彼女から外していれば、菜穂はわざとらしく大きな溜め息を吐いて座り直した。


「あんたって本当…………まあいいや。んで、連絡くらいはした？」

「しようかな、とは思ったんだけど……」

「しておきなさいよ、一応。もしかしたら好きになるかもしれないでしょ？」


　好きになるかもしれない――――……か。

　確かに御幸は、優しいところもあるし、顔も格好いいし、性格にやや難ありなところはあっても、高校のときも今も結構女の子からの人気はあると思う、けど。


「そんなこと、あるのかなぁ」

「あるわよ、人生何が起こるかなんてわかんないんだから。それに、そしたらそのナルミヤって人のことも忘れられるんじゃない？」


　成宮くんのことを忘れられるというメリットは、非常に大きいものだけれど。そんな簡単に人を好きになれるものなのかと不安もある。何せ、経験が浅いから。


　……とはいっても、たった一週間だけだけど御幸のことで頭がいっぱいだったんだから、好きになることは絶対ないとは言いきれないような気もする。


「でも、そんな利用するみたいなことは……」

「利用だってなんだってしてもすればいいじゃないの。結局最後に好きになれたらそれでいいんだから」


　「難しく考えたり悩んだりする必要はないの」と淡々と言う菜穂。彼女は恋愛経験も豊富だし、きっと私の抱えてる悩みなんて菜穂にとってはなんてことないものなんだろう。


「恋愛ってさー…………そういうもん？」

「そういうもん。恋愛にはルールなんてないんだから、周りからの目とか気にしないで自分がしたいことをすればいいのよ」


　ね？ と言って笑いかけてくる菜穂に、心が軽くなった気がして。少しだけ、前に進めた気がした。

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