艶恋味。

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「まぁでもこの前は悪かったよ、車も大したことなかったし」

「大したことなかったんですか…？」



その代償に私の体を差し出したのに
なんたるオチよ、それ…！




「あ、いや、大したことあったかな？」

「もう今更言葉を訂正しても遅いです」

「んはは、悪い悪い」



はははって笑いながら、絶対悪いとは思ってないような言い方。

この緩い雰囲気が
私の心の張り詰めてる部分に心地よくまとわりついてくるのかも。




「んーと、この辺？」

「あ、そこの角の家です」



了解、って私の家の敷地に車を停めると
まだ熟睡してる母を軽々と抱き上げて、私に玄関の鍵を開けるように促し
寝室まで運んでくれた。

体はちっちゃいけど、体付きは逞しかった記憶がある。
母のことを軽々と運んでしまうあたり、やっぱり男の人なんだなぁ……。




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「あの、本当にありがとうございます。
めちゃくちゃ助かりました」




帰り際、玄関で靴を履く彼に再度お礼を告げると
立ち上がってこっちをくるりと振り返った。




「じゃあこの借り、また身体でチャラにしてもらおっかな」




寝ているとはいえ、母に聞かれないようになのか
少し耳元に近付けた低い声。

その甘い声にあの夜のことがフラッシュバックして彼を見上げた。

熱を持ってるその視線に高揚するこの気持ちはなんなんだろう。




「なーんて冗談、
「いいですよ。」

「へ？」




自分で自分の言葉に驚いた。

だけどこうなるともう溢れ出る感情が止められない。




「なんかもう……、疲れちゃって」




母のこととか、結婚のこととか。

考えても答えが出ない毎日に
時間だけが過ぎていって、焦って。

そんな毎日に疲れた限界の行き着いた先が
今この状態なんだと思う。




「現実逃避が……したい、」




何も考えずに、気持ちよくなれて
私のそういうところを満たしてくれたらそれでいいんじゃないかなって。





「それって俺、誘われてんの？」




グイッと腕を引かれて
裸足のまま玄関へと下ろされた。

ひんやり冷たいコンクリートが痛い。




「……分かんない」


「ちゃんと言ってよ」




でも改めてそう聞かれると恥ずかしくて
目を逸らしたのに顎を持ち上げられ
無理やりに目線を合わせさせられた。

もう絶対分かってるくせに
唇が触れる寸前でもう一度、いいの？って私に決断を委ねてくる。

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