泣き顔マニア ２

５４ ページ5

.

それから一ヶ月。

相変わらず北山先輩とはお友達状態で
会社帰りにご飯に行ったり、今日なんて休みの日なのに二人で出掛けてる。



でも……、
前向き宣言をしてからは、キスすらしてない。

あの宣言の前はキスしてきたのに
逆にそれがむず痒いというか……、

あれ？私求めちゃってるの………？





「なぁ、A」


「はいっ？！」


「どうした、ぼーっとして」


「あ、いえ……」




日曜日の水族館で
イルカショー待ちの席、考えごとをしていたら
顔を覗き込まれた。




「イルカ嫌いだった？」


「まさか！大好きですよ！
先輩こそ水族館なんて退屈じゃなかったですか？」


「ぜーんぜん。
Aと一緒ならどこでも楽しいし」


「ま、またそんなこと言う……///」




あはは、って笑ってる先輩は
もはや本気で言ってるのか、私をからかってるのかも分かんない。

けど、嬉しい自分がいるのが複雑。




「よし！イルカ楽しみですね！」


「イルカもいいけど
なんか魚ばっか見てたら、魚食いたくなってくんな」


「えー、最低ー」


「じゃあ夜、寿司食いに連れてかねぇぞ？」


「………行きたいです、」


「えー、さいてー」


「もうっ、マネしないでくださいっ」


「ふははっ」





終始楽しそうに笑ってくれる先輩といると楽しいし
こういうやり取りも、周りから見たら恋人同士にしか見えないんだろうな。

きっとこのままいけば先輩のことを好きになれる、
そう思っていた矢先だった。







.






「裕太？どうしたの？」




月曜日、出勤してみると明らかに元気がない。

毎日嫌になるくらいデレデレしてたのに
顔が曇ってて、私の問いかけに
なんでもない、って一言だけ。




「………遥さんと、何かあった？」




仕事は順調なはずだし
こうなる原因は遥さんにしかないと思う。

デスクから顔を上げて私を見たかと思うと
口を開きかけたけど、またくるっとパソコンに戻ってしまった。




「ねぇ、どうしたの？
気になるじゃない、私にも言えない？」


「Aだから言えないんだよ」


「え？」


「ほんと、なんでもないから」





…………素っ気ない。

裕太のこんな雰囲気が初めてで
どうしたらいいのか分かんなくて、とりあえずその場を離れるしか出来なかった。

５５→←５３ 北山side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す