【Ｈ×H】長月のセレナーデ 2小節目【幻影旅団】 (ページ10)

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【短編】君に抱かれて眠りたいページ10

「え？」
「団長の寝込みを襲うとは、度胸のある女だな、Aは」
「なあああ！？」

　いつものように目が覚めた。けど、目が覚めたとき、すぐに視界に入ったのはド至近距離のクロロの顔だった。
「しっ。大きな声をあげないで。他の奴らが起きる。それともAは、アイツらに俺がAに襲われたって吹聴していいのか」
「よくないけれど…でも、わ」
「Aは、いい香りがするね」

　有無を言わさず、彼に強く抱きしめられる。ここはどこ、私はなに。そう問いたいけれど、もう頭の中で考えていたあれこれは消し飛んでしまった。
　男の人に、こんな風に強く抱きしめられたのなんて、初めてだった。それも、ベッドの上で。
「…私、そんな、つもりは…」
「分かっているよ。Aがこっちへ来るとき、その場所を君自身が指定できないことも。ただ意地悪をしたくなっただけだ」
「本当にいじわるね…」

　いつもよりずっとずっと強く、クロロの匂いが香る。初めは不覚にもとてもドキドキしてしまっていて、もう顔が熱いやら何やらで、このまま朝がきて早く消えてしまいたいって思ったのに。
　不思議ね。今はとても、安心している自分がいる。

　ひどく優しい手つきで、クロロが頭を撫でてくる。あぁ、心地がよい。眠くなってしまいそう。彼の腕の中で、そっと顔を上げると、優し気な瞳と目が合った。
なんだ、こういう顔もするんだ。いつも無機質な瞳で、何を考えているか分からないというのに。
　まるで、だいじなたからものでも愛でるような。そんな眼差し。
「A…」

　消え入りそうな声が、私の名前を呼んだ。なにか柔らかいものが、額に触れた気がして。でも、もう考えないようにした。

　あぁ、クロロ。

「好きだよ」

　好きよ。

「クロロ…今、何か言った？」
　彼が今しがた、何か言ったような気がして。小さく、まるで内緒話でもするみたいに。クロロに問う。
「…何も」

　聞き逃してはならなかったような、そんな気もして。だけど、もう思考が止まってしまっている。頭がふわふわ、心がくすぐったいような、懐かしいような。甘ったるいこの気持ち。

　胸に込みあがる一言が、口からこぼれないように私は目を閉じた。
頬の上を優しく、指が通る。もう、このままでいい。朝なんてこなくていい。どうしてなんだろう。

　どうして、この人のそばにいるのか、こんなに好きなんだろう。

　あぁ、覚めないで。

　あなたの夢から、覚めたくない。