【Ｈ×H】長月のセレナーデ 2小節目【幻影旅団】 (ページ11)

今日:1 hit、昨日:5 hit、合計:7,716 hit

【短編】君を抱いて眠りたいページ11

ふと、気付いたらAが隣にいた。なんとなくベッドに横になっていたときだった。驚いて思わず身体を起こすが、珍しく彼女は眠っていた。その酷く安心しきったような顔には、思わず笑みがこぼれた。
「…A？」
　起きてほしいような、このまま起こしてはいけないようなそんな気がして。小さな声で彼女を呼ぶ。けれど、彼女は夢の中だった。ほんの少し赤く染まった頬と、長い睫毛。指をそっと頬に触れたら、思いのほか柔かった。

　あぁ、よかった。ここに他の誰もいなくて。

　見せるものか。触れさせてなるものか。

　俺はそっと彼女の横に寝転がった。ギシ、と沈むベッド。すると、まるでおとぎ話の冒頭のように、長い睫毛を振るわせて、彼女がゆっくりと目を開いた。
「え？」
　素っ頓狂な顔をするAに、俺は笑いをこらえて意地の悪い一言を言ってやる。途端に顔を真っ赤にしてわたわたする姿が、たまらなく可愛く感じた。

「Aは、いい香りがするね」
　そう言って、何かうだうだ言っている彼女を抱きしめる。鼻を掠めるのは、甘く柔らかい彼女の香り。途端に、さっきまで騒がしかったAは急に黙り込んだ。許せ、A。アンタを見てると、意地の悪いことをしてしまいたくなるんだ。焦った顔や困った顔を見たくて。

　ばかだな。本当は全てが愛しくて仕方ないくせに。

　Aの笑う顔が、一番好きなくせに。

　少し癖のある柔らかい彼女の髪を撫でる。きゅ、といつの間にか俺のシャツを掴んできた仕草にたまらなくなった。そっと額に唇が触れる。

　朝など、もう来なくたっていいのにな。永遠に、夜であればいい。なんてばかみたいな考えが頭を埋め尽くす。全く本当に困るな。アンタといると、俺は少し知能が下がるらしい。一体それは何の念能力なんだ、と問い詰めたいところだ。
　あぁ。…いよいよおかしいな。
それくらい、Aは俺をおかしくさせる。

「A…」
　華奢な身体を、もう一度強く抱きしめた。ふと、こぼれるように。滑り落ちるかのように、頭で考えるより先に、その言葉は落ちた。

「好きだよ」

　"好き"。あぁ、そうだな。それ以外の、何ものでもない。人はただ、自分の好きなものを集めて生きていく生き物だから。好きなものに囲まれて、生きていきたい生き物だから。

　だから俺は、アンタが欲しいのか…。

「今、何か言った？」
「何も」

　もう君の夢から、覚めたくない。