そして少年は、彼女を欲した。 ページ9
日々生きるか死ぬかの、そんな毎日を送っているこの子に、目に見えないものが大切だなんて、そんな絵空事は通じない。あぁでも。
クロロ。あなたがいつか本当に欲しいものを手にした時。
きっとそれは、形あるものじゃないような気がするよ。
「見えなきゃ意味がないでしょ。どんなに大切でも」
そう言って不思議そうにクロロは首を傾げる。
「心の眼で見るってことだよ」
「ふぅん、心ね」
納得したんだがしてないんだかの様子で彼は頷いた。後先不安だなあ、このトシで本当に…。
「でも、オレは嫌いじゃないよ、この話」
「それは良かった」
「…なんというか、言語化は難しいが」
後にこの物語はクロロの愛読書になるのだけれど、それはまだ先の話。
「A」
「ん?」
「オレも、Aの世界へ行くことはできないのか?」
「どうだろう。できないんじゃないのかな。いつも、私だけ消えちゃうんでしょ?」
「あぁ。Aは神出鬼没で、いつもふらっとオレの前に現れる。そしてふらっと消える。どうにかコントロールすることはできないかと思って」
「無理ね。できたらとっくにしてるわよ」
「…つまらないなぁ。オレだって、Aの見ている世界を見てみたいのに。アンタだけなんてずるい」
「だから、せめてこの本で知って貰えたらって…」
「そうじゃない」
パタン、とクロロは本を閉じた。
「文字や写真でどんだけAのいる世界を見ても、やっぱりAはそっちの人間で…。オレはそれが気に入らない。結局Aは、オレの触れられない世界のものなんだろ」
「…どういう意味?」
「Aは、そっちの世界のものだから。オレのものにはできない。それが嫌だ」
「オレのモノってねぇ…。私は誰のものでも」
ぐい、とふいに顎を引かれる。
「…必ず。いつか、お前を攫ってみせる。オレは欲しいものは手に入れないと気が済まないタチなんだ。Aだって知ってるでしょ」
「…、」
切実に、そう語る少年の瞳は本当に綺麗で。このまま吸い込まれてしまいそうだった。
その時、ほんの少しばかり、あなたのものになりたいって思った自分がいたの。
ねぇクロロ。
私を、攫ってくれるんじゃなかったの…?
再び私と彼を引き合わせたのは神様の悪戯だったのだろうか。もう、私がクロロを忘れることなんて二度とできなかった。
それはいつまでも記憶に染み付く。あの降り出しの雨のように。
心はもう、とっくにあなたのものになっていたから。
【短編】君に抱かれて眠りたい→←私の世界の一部を、あなたに見せよう。
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作者名:アユミ | 作成日時:2021年8月18日 19時