囲われたミツと花【前編】

43 K ページ43

「待て！ミツ！おかしいだろ！こんなにも薄暗いのに、ミツの頬の赤さなんて分かる訳ないって！」



陽は落ち、街灯も小さい。でも、きっと見えない訳じゃない。
玉ちゃんが焦るように太輔が掴んでない方の手を掴んでくれた。



届かなかった手を今度は掴んでくれた。
この玉ちゃんの手は、魔法の手だ。
玉ちゃんに触られると、怖がってた犬や猫は、途端に警戒心を無くす。
安心させてくれる手だった。



「…玉ちゃんごめん。太輔と話し合ってくる」



俺の恋人は、太輔だ。
ずっと守ってくれていたのは太輔だった。



縋りたい、離したくない、もっと一緒にいたい、一緒に色んなところに行きたい、そう思わせてくれたその手は、握れない。



迷惑ばかりかけられない。




それでも玉ちゃんの掴む手は、弱くならなかった。
離さずにいてくれた。



「二度と近づくな。」



俺の手を掴んでた玉ちゃんの手を太輔は掴むと、そのまま塀に押し付けた。胸ぐらを掴んで、ブロック塀に玉ちゃんのシャツが擦れるのが目に入る。


玉ちゃん…！



「太輔、帰ろ！俺は太輔と居たい！」



この場を収める方法が浮かばない。
コミュニケーション力を培わなかった自分には、対応力がなかった。
あたふたする事しか、出来ない。
太輔の機嫌を取ることしか出来ない。
玉ちゃんを守るには…



太輔は、それ以上は何も言わず俺の手を再び掴むと、足早に歩き出す。
その無言の背中は、優しかった太輔を初めて怖いと思わせてしまうには、充分だった。



愛しい恋人のはずなのに、



ガチャりと鉄のようなドアを開けると、あんこがハアハアと嬉しそうに出迎えてくれる。
ご飯、あげなきゃ。



あんこに空いてる方の手を伸ばそうとすると、その手も阻まれる。



「俺以外触れるな。」



寝室に引きずり込まれ、ベッドに押し倒される。



「その瞳に俺以外を映すな」



そして、乱暴にシャツを剥ぎ取られた。
ボタンがプチンと宙を跳ぶ。ストールは、いつも避妊具が捨てられるベッド脇のゴミ箱へと投げ捨てられた。



「この服も全て宏光には似合わない」



シャツも丸め込まれ、今度は窓ガラスの方へと投げつけられる。
解れたボタンが、カチンとガラスにあたる音が耳を掠める。



太輔の香水が汗に混じり強くこの場を支配した。



『 ミツに似合うと思って買ったんだ』



何故だろう、視界が歪んで
鼻の奥に痛みが走る。



「もう絶対に外に出るなよ」



見えない糸に縛り付けられた気がした。

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