囲われたミツと花【前編】

42 K ページ42

「おい！ミツの話ちゃんと聞いてやれよ…！」


玉ちゃん…！



「お前には関係ない」
「ミツは外に出たがってんだ！わかんないのか？」
「……外には出さない」
「………！」



届かない手は、太輔に引かれる。
玉ちゃんは、俺に向けてじゃなく、太輔に向けて、俺の話を聞くように…と言った。
だけど、その外に出たいという想いは太輔に否定される。
心配症の太輔。そうさせてしまったのは、誰でもない。俺自身だった。



互いの約束のシルシが、カチンとぶつかる。



『 俺が、宏光を一生守るから。これはそのシルシ』



自分の存在が、太輔にとっての幼馴染か恋人かまたも室内犬か、分からなかった。太輔にとっての自分は、この指輪によって恋人だと知った。あの時の事をふと思い出す。



太輔は、きっと他の人と遊んでない。
学生時代、学校やバイトに行く以外は、ずっとそばにいてくれた。外に出れない俺のために、たくさんのものを我慢し、犠牲にしてくれた。



太輔にも我慢をさせていた。
だから、外に出たいと言えば喜んでくれると思ってた。
でも、目の前の太輔は、言ったんだ。




憤りを隠せない表情で。
今まで面倒見てやったのに、今更なんなんだ…とでも、言いたげな視線を送ってきた。
狂気な瞳が鋭利に刺さる。恩がある。太輔には、逆らえない。




「宏光に構うな。宏光にとって外の世界が危険すぎるのは、俺が一番分かってる」




なんでだろう、俺が外に出れば…
おまえの負担は減るはずなのに。



俺は、おまえがわかんねえよ。



なんで、外に出るなと言い続けるのか。
守ってくれてる事は分かってる。でも…



「…宏光、もう分かっだろ？凝りなかったのか？今日も痛い目にあったんだろ？」
「……、」



太輔の言葉に思い出す。
忘れてはいなかった。ぶつかった人に便所へと連れ込まれ…殴られたこと。



「……ちょっと待て。何で今日の事、アンタが知ってんだよ」



玉ちゃんの声に、太輔の俺を掴む手が、じりじりと強くなる。
…確かに、



「んなの、宏光の顔を見れば分かる。頬が赤くなってんだろ」



…太輔には、何もかもお見通しなんだ。



「心配かけてごめんな。帰ろう。太輔。あれ、太輔のために買ってきたんだ。一緒に食べよ？」



きっと中はぐちゃぐちゃだ。
でも、太輔に食べて欲しい。だって美味しかったから。最近の太輔は、少し変だけど…食べ物を粗末にする奴じゃない。



言えば、屈んで太輔はそれを拾った。
俺の手は離さずに。

43 K→←41 K

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す