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人間失格と魔女 ページ8

ポートマフィアの本部ビルが僅かに揺れる。
鳴り響く警報音と、構成員達が慌ただしく駆け回る音。
先ほど、遊撃隊の隊長が侵入者を抹殺する為に向かった。



「…つまらない街だね」



最上階の首領執務室の窓が四年ぶりに開けられた。
広がる街並みは美しい、絶景と呼べるはずなのに。



「貴女もそう思ったことだろう」



男は、太宰治は赤く染まる街を見下ろして、"彼女"に問いかける。



「"魔女"」



この部屋は首領が選んだ者以外は決して入れない。
だと云うのに、聞こえてきたのはポートマフィアの人間では無い、
"本心が見えない少女の笑い声だった"。



「ふふ、そんなことありませんよ」



赤い唇に指先を当て、可憐に笑う一人の少女。
濡れたような黒檀の髪に、雪のように白い肌、血を彷彿とさせる赤い唇、
そして、深い紫水晶の瞳。
真っ白なワンピースから伸びる、真っ赤な靴を履いた細い足がコンと音を奏でる。



「とっても素敵な街じゃないですか。
人々の欲望と生死の吐息が感じられる退屈しない街です」



鈴を転がすような美しい声が、楽しげに言葉を紡ぐ。
太宰は底の見えない瞳で少女を一瞥した。
そして、僅かに口角を上げる。



「君も、私と同じだろう?」



太宰の言葉に少女は笑みを浮かべて首を傾げた。



「まあ、失礼な人。私はこの街が好…」



「じゃあ君が憎んでいるのはこの世界かな?」



その瞬間、少女の顔から笑みが消えた。
彼はこの瞬間初めて、少女が笑顔以外の表情をするのを見た。



「…なにが仰りたいのでしょう?」



「君はこの街は愛している、
だが世界を憎んでいる、恨んでいる。だから…」



太宰は夕暮れに染まる街を背に、手を広げた。



「憎んでいる世界の一部であるこの街を、君が愛しているはず無いんだよ」



瞬間、肌を突き刺すほどの殺気が部屋に満ちる。
笑みを消した少女は、壊れた人形のように首を傾げて、赤い唇を動かす。



「お話はそれだけでしょうか」



「あぁ、それだけさ」



「…そう」



深淵を思わせる瞳で街を一瞥すると、少女はまたその顔に笑みを浮かべた。



「では、私は特等席から"貴方の最後"を見させていただきますね」



パチンと指を鳴らし、少女は瞬きの一瞬で消える。



「見るといいさ、"巨大な嘘"であるこの世界を」



残された部屋で、太宰は皮肉めいた声で笑った。

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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、! (9月11日 0時) (レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました!すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます! (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - 1年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます! (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです!このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年11月9日 21時

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