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名探偵の助手 ページ33

また、あの夢を見た。



「忘れないで」



壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返す。



ー私が何を忘れているって云うのー



こんな夢、早く覚めて仕舞えばいい。



「ねぇ…思い出してよ」



泣きそうな声だった。
その瞬間、目が覚める。



「はッ…は…」



またあの夢を見た。
Aの手のひらには汗が滲み、酷く喉が乾く。



「…私は、誰かのことを忘れているとでも云うの」



夜明け前の窓を見つめる紫の瞳は揺らいでいた。
立ち上がり、蛇口から流れる水をコップに注ぎ、それを一気に飲み干した。



「思い出さないと、いけないことなの…?」



その呟きは、誰にも聞かれる事はなかった。



「…はい?今なんと?」



夢を見た朝、Aは出社した探偵社がその端正な顔を僅かに歪めた。



「だーかーらー!君は今日限定、僕の助手なんだよ!
光栄に思っていいよ、はっはっはっはっ!」



「…先輩、これは一体どういう事でしょうか」



Aはジロリと音がつきそうなほど鋭い眼差しで織田の方を向いた。
普通の人間なら飛び上がる視線に眉一つ動かさず、織田は口を開く。



「済まない、本来なら俺の仕事なんだが、生憎別の予定が入ってな。
お前は最近仕事の調子が良いから、適任だと思ったんだ」



「…別に、嫌では無いですけど」



「情報を扱う仕事が俺よりも上手い、探偵社の中でも」



「判った!判りましたよ…私が乱歩さんの仕事の手伝いに行きます」



「そうか、ありがとう」



褒められて恥ずかしく、顔を背けていると、頭を撫でられた。
ギョッとして顔を上げると織田の青い瞳と目が合う。



「あまり無理はするなよ」



織田は優しい、そして強い。
先輩として申し分ない人だ。



「…はい」



胸に感じる違和感は、そっと仕舞い込んで頷く。
すると、ぐぃっと乱歩に腕を引かれた。



「さ、行くよ!電車を乗り継いだ先の殺人事件の現場に!」



「内容は…」



乱歩が帽子を深く被り、先程とは打って変わって低い声で云った。



「まるで重いもので悉く潰されたような現場らしい」



かなり凄惨なものなのだろう。
拳を握りしめ、覚悟を決める。



「一つ、よろしいでしょうか」



「なに?」



「私、本当に必要ですか?」



「だって僕、電車の乗り方知らないもん」



「…」


この時Aは、「あれ?乱歩さんって私より年上だった気が…」と思ったが口には出さなかった。

押し潰された赤の現場→←これでいいのかもしれない



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もこすけ(プロフ) - ちょこれーとさん» コメントありがとうございます。続編が出ましたので、そちらも宜しくお願いします。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年11月9日 21時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこれーと(プロフ) - 今日めっちゃ更新多くて嬉しいです!!! (2019年11月9日 20時) (レス) id: adc186f0a4 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - azukiさん» コメントありがとうございます。一回目、そして二回目は…。今後の展開にご期待ください。読んでくださりありがとうございました。 (2019年11月4日 10時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
azuki(プロフ) - 本当の笑顔…今回が一回目で、二回目は……あー!この後の展開が楽しみすぎます!これからも頑張ってください! (2019年11月4日 8時) (レス) id: 2de50b2480 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - にゃんこさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。そんな風に言ってもらえて嬉しいです。今後も頑張る力が出ました。これからも応援よろしくお願いします。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年10月14日 18時

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