【文スト】この世界と獣と白雪姫【BEAST】

君にしか出来ないこと ページ26

ずっと隠してきた本音が、口から一つ、また一つと溢れ出る。



「なにもかも中途半端なんです、いえ、順調には進んではいます」



褒められたりもした。



「上手く出来てる…そう思って良い筈なんです」



でも、与えられた仕事を終えた後、思うのだ。



「でも『私以外でも、簡単に出来る事だ』…って思うんです」



「…それが不満なのかい？」



違う、そうじゃ無いんだ。
赤い唇をぐっと噛み締めて、俯く。



「私は…他の皆のように"飛び抜けて優れたもの"が無い」



皆、その人にしか無い強さがある。
じゃあ、自分は？



「傲慢だとは判っています…でも、私はこのままなら"探偵社にいる理由"は…無い」



理解者が欲しい、居場所が欲しい、"求めているなにかが欲しい"。
無いものばかりねだって、焦って、勝手に追い詰められている。
それが一番惨めで、情けなかった。



『嗚呼情けない、弱音を吐くなんて、それも他人に』



これではあの家にいた頃となんら変わらない。
存在価値も見出せない、誰からも理解されないちっぽけな存在のまま。


「…ごめん、なさい…変なこと話して」



「現場に出た？」



「え…」



津島の鳶色の瞳がこちらを見つめていた。



「一応出ましたが…殆どなにも出来なくて」



「拳銃は扱えた？」



「…はい、でも、それは攻撃型の異能を持つ人で事足りました」



芥川みたいに強い異能があれば良かったのに。
嫉妬に似た感情を抱くことが恥ずかしい。



「そうかい、やはり君は頭脳派なんだね」



なのに、彼はそう云ってくれた。



「…え？」



「君、賢いだろう？事実、一眼見ただけでこのカフェのメニューから値段まで全て覚えてる」



津島はメニューに並ぶいくつもの品名をその指でなぞった。



「多分君は、戦闘よりも現場指揮、参謀に向いてるんだ。
現に君の異能は情報が集まることで効力を発揮する。
君は、チェスの駒に成るより駒を動かす方が向いているのさ」



津島の優しい瞳が、不安げに感情を吐露した美しい少女を見つめる。



「大丈夫、君は賢い子だ。
自分が考えているよりもずっとね。
…知識は武器になる、君の武器はその頭脳だ」



優しい、導いてくれるような声だった。
あれだけ悩んでいたことが莫迦らしくなるほど、
彼の言葉は心のモヤを晴らしてくれた。



「大丈夫、やれるよ君なら」



そんな言葉がずっと耳に残っている。

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