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角砂糖とミルク ページ25

この数日、色々な仕事をやってみた。
現場に出てみたり、事務仕事をしてみたり、聞き取りをしたり。



『どれも出来る、でも満足のいく結果にはならない』



歯痒い、悔しい、情けない。
芥川と子どもみたいな喧嘩をするのはまだ良い。
でも、



『あれは、私で無くても誰だって出来る事』



私は織田さんのように未来が見える訳ではない。
私は芥川のように圧倒的な力の異能を持つ訳ではない。
私には、探偵社の皆のように明確な存在価値が未だ、無い。



『嗚呼、駄目だ、情けなくなる、みっともない』



最近、よく判らなくなるのだ。
何故探偵社に入ると即決したのか、
何故異能を知っていたのか、
何故一人の部屋があんなに嫌なのか、
…何故自分が誰かを捜しているのか。



『忘れないで』



「ッ!」



思い出す、あの夢の声。
上手く行かない事だらけで苛々する。
その時、ふと頭をよぎるあの場所。



「…あ…」



あそこなら落ち着くかもしれない。
あの、他から切り離されたあの場所なら。
もしかしたら、あの人にも。



カランカラン



気付いたら、あのカフェの扉を開けていた。
店内には…客は誰も居なかった。



『当たり前だ、都合よく居る訳無い』



珈琲を注文し、一人席につく。



『此処は静かで良い、余計なことを考えなくて済む』



いつもそうだった、親戚に引き取られた時も、学校で孤立した時も、
一人が一番落ち着くことが出来た。
でも…あの社員寮で一人でいることは不快だった。




「…訳が判らない」



運ばれてきた珈琲に映る自分の顔は酷いもの。
あの人に、母親に似て綺麗な筈の顔は、
焦りと苛立ちに追い込まれた女の顔。



「…判らない…」



珈琲の中に、角砂糖を一つ、つけられていたミルクを注ぐ。
柔らかな白が交ざっていく光景をじっと見つめていた。



『なんだか、疲れた』



「何かあったのかい」



その時だった、聞き覚えのある声がしたのは。
顔を上げると、そこにはあの人がいた。
わずかな不安を滲ませ、こちらを覗き込んでいた。


「津島、さん」



「…この前の珈琲、砂糖もミルクも入れてなかったよね?」


津島は向かいの席に座り、少しだけ悩んだ素振りを見せてから、



「…聞いてあげるから話してご覧」



そう云って笑った。
その笑顔が何故か、酷く懐かしく思えた気がした。

君にしか出来ないこと→←なにもかもが空回りする



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もこすけ(プロフ) - ちょこれーとさん» コメントありがとうございます。続編が出ましたので、そちらも宜しくお願いします。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年11月9日 21時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこれーと(プロフ) - 今日めっちゃ更新多くて嬉しいです!!! (2019年11月9日 20時) (レス) id: adc186f0a4 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - azukiさん» コメントありがとうございます。一回目、そして二回目は…。今後の展開にご期待ください。読んでくださりありがとうございました。 (2019年11月4日 10時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
azuki(プロフ) - 本当の笑顔…今回が一回目で、二回目は……あー!この後の展開が楽しみすぎます!これからも頑張ってください! (2019年11月4日 8時) (レス) id: 2de50b2480 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - にゃんこさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。そんな風に言ってもらえて嬉しいです。今後も頑張る力が出ました。これからも応援よろしくお願いします。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年10月14日 18時

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