【文スト】この世界と獣と白雪姫【BEAST】

治療は大切に ページ18

「…お前、日焼けしたか？」



「してません」



「あと何故田植えをしただけなのに殴られたような痕があるんだ」



「気のせいかと」



「いやでも芥川も」



「殴り返したのでお互い様です」



「やはり殴り合いしたんだな！」



国木田に進捗を報告したAの頬にはガーゼが当てられている。
ここ数日、田植え中に口論になり芥川と喧嘩になることは多々あった。
しかも、彼は書類整理が大の苦手らしく、それをさりげなく押し付けてくる。
そしてそれも喧嘩の火種となるのだ。



「お前は仕事も出来るし冷静だが…芥川が絡むと幼児になるな…」



Aはその言葉に若干不服そうな顔をする。
別に喧嘩をしたいわけでは無い、ただ合わないだけだ。
もしも芥川がもっと優しく、それでいて気が弱い同僚なら。



『…なに考えてるんだか』



まただ、またこの感覚。
なにかがズレているような、歪んでいるような異物感。
その感覚にグッと唇を噛んでいると、



「おやァ？アンタ怪我してるねぇ」



ポン、と肩に手が置かれた。
振り返ると、そこにはニンマリ笑った与謝野晶子がいた。
彼女は探偵社の外科医であり、世界的にも珍しい治癒系の異能者らしいが。
何故、そんなにも嬉しそうに笑っているのだろうか。



「治してやろうか？」



その時、ゾクッとした悪寒に襲われた。
咄嗟に逃げようとしたが、与謝野につかまれて逃げられない。



「あの、私は…」



「ほーら、女の顔に傷が残ったら大変だろう？」



ズルズルと引きずられるように医務室に連れて行かれるA。
そして暫くしたのち、部屋の中から物音となにかの悲鳴が聞こえる。
そして、とうとうそれが始まった。



「ああああぁ、待っ、待って、それ医療器具じゃな…ああああああ！！」



社内に響き渡る、少女の凄惨な悲鳴。
国木田は静かに眼鏡を外して耳を塞ぎ、谷崎が心底不憫そうな顔をした。



「これも新人の通る道だ…」



「そうですね…」



「駄目、待っ…ああああああ！！」



悲鳴、物音、与謝野の笑い声。
それが暫く合唱したのち、



「…あっ」



艶っぽい声と共に終わりを告げた。
医務室から出てきた与謝野の額には輝く汗が浮かび、



「暴れたから縛って目隠ししたら更に暴れてねぇ」



国木田と谷崎は無言で顔を覆った。
医務室から、すすり泣くような声が聞こえた気がした。

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