【文スト】この世界と番外編 その四

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結局中也は高級ワインを二本購入した。
それを自宅に送らせる辺り、さすがマフィア幹部と感心してしまう。
何故か彼は先程から上機嫌で、鼻歌交じりに歩いている。







「そう云やぁ」








「はい」








「お前、最初タメ口だったのになんで次会ったらいきなり敬語になってんだ？」








いきなり痛いところを突かれ口を噤んだ。
これは云ってはいけない類の話だ。
彼の地雷を踏み抜く。







「なんだよ、いきなり黙り込んで」








確かに、最初会ったと時、その後マフィアに捕まった時はタメ口だった。
だがそれにはちゃんとした理由がある。
タメ口から敬語になった経緯は、マフィアに捕まり、その後太宰と合流した時に遡る。







『そう云えば君、中也と会ったんだってね』








『あぁ…あの人…太宰さんのお知り合いで？』








『うげぇ…お知り合いってやめてよ、ただの腐れ縁だよ。成人してもあんな小さいちびっこ』








『…え？成人？』








『うん、彼、私と同じ二十二歳』








その後、慌ててタメ口から敬語に直した。
つまり何が云いたいか。







『同い年くらいだと思ってたんだよなぁ…』








史実の中原中也が背が低いことは知っていた。
それに、会った時も暗かったせいで顔はよく見えなかったのだ。
だから、同い年、もしくは年下だと思っていたなんて口が裂けても云えない。








「…改めて、年上には敬語を使わないとなぁと思っただけです」








「あー、そういうやつか。てっきり年下だと思われてたとか思ってたが違うみてぇだな」







大正解です中也さん。
だがそれは口に出さない。
人は誰しも秘密を持っているものだ、多分。









「お、着いたぞ」








中也が足を止めた先は高級女性服店。
それに訝しげな顔をし、Aはハッとする。








「人の趣味に口は出しません」








「まさか俺に女装趣味があるとでも思ってんのか！？」








「…」








「目ぇそらすんじゃねぇ！」








「…趣味に口は出しません」









「だーかーらー！手前の服買うんだよ！！」








「へぇ…そうですか…ん？」








ここで？私の服を？
そう認識した瞬間、踵を返そうとするが強い力で肩を掴まれた。








「買い物に付き合わせた礼だ、来いよ」









「あ、ちょ、待っ」








そのまま店内に引きずり込まれる様は、見方によっては誘拐だったと今でも思っている。

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