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二百三十五話 [支配者の目覚め] ページ37

フィッツジェラルドとの取引先で待っていたのは特殊部隊の包囲だった。
四方八方を警察に囲まれ、黒蜥蜴はひたすらそれらを攻撃していくが数の多さに圧倒される。



『駄目だ、相手は感熱眼鏡も装備している、谷崎さんの異能が使えない』



引き金を二回引いて、Aは苦しげな顔をした。
放たれた銃弾は特殊部隊の肩や足を掠め、動きを止めさせる。
追い詰められている事、正義側の人間を傷つけた事、自分の弱さが許せない事。
色々なものに苛立ち、そして情けなくなる。



「賢治!」



与謝野と谷崎が猟犬の刀に貫かれた賢治の元に向かう。
重症だが、賢治は生きている。



『何処かにあの刀を操っている異能者が居るはず』



その時、与謝野がハッとしたように顔を上げた。
視線の先に目をやると、そこには雨も降ってないのにレインコートを着た人が一人、立っていた。
顔は見えないが、その姿に妙な違和感を覚える。
だがその理由が判るより前に、その人物がグイッと手を動かした。
瞬間、賢治の背中に刺さった刀が動き始める。



「ッ、賢治!!」



刀は意志を持ったように蠢き、そして血を吐く賢治の体を持ち上げた。
谷崎が刀を抜こうとするが抜けない。
その光景に、指先が冷たくなる。



『嫌、嫌だ』



死んでしまう。
"あの日"のように、大切な人が。
頭の中は熱くて仕方ないのに、どこからか冷たいものが湧き上がってきた。



『やめて、もう奪わないで』



あの日の、最後に見た父の姿が脳裏に浮かんで、消えた。
もう失いたくない、もう奪われたくない。
もう…誰も死なせたくないんだ。



「もう、誰も…」



なにかにヒビが入る音がした。
亀裂はどんどん広がり、まるで硝子のように割れる。



パキン



この音を、Aは以前にきいたことがあった。
自分の中でなにかが壊れ、そして生まれる、そんな音。



「『やめて』」



冷えたその声が響いた瞬間、ある者達の動きが完全に止まった。
刀が刺さり呻いていた賢治も、
刀を抜こうとしていた谷崎も、
彼を治そうとしていた与謝野も、
敵と交戦していた広津でさえ。
まるで、石像にされたようにその体は動かなくなっていた。
レインコートの刺客の体が一瞬ぐらりと揺れる。



「『やめなさい』」



少女の力は支配者の力だと、誰かが云った。
二十年前、ただ一人玉座で女王として微笑んでいた女の娘は支配者か、それとも。

二百三十六話 [代償の痛み]→←二百三十四話 [翅無き身の悲しきかな]



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riia - こんなに長いお話は初めてみるので尊敬します!他の夢小説よりちゃんとしていてすごく面白いです!神作だと思います!大好きです!登場人物の性格もちゃんと掴めていて見ていて楽しいです!ほんとに文ストの中に居そうで違和感がありません!設定とか凄いと思います!! (2022年8月5日 16時) (レス) @page24 id: 9d716aa4c8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - †三毛猫†さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。泣いていただけたようで、書いているこちらとしてはとてもありがたい事です。とても嬉しいです。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年5月19日 12時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
†三毛猫†(プロフ) - 毎回、夢主ちゃんの過去のお話しで泣いてしまいます。こんなに感動できる物語がかける作者さんを尊敬してます (2019年5月18日 19時) (レス) id: a139b9767e (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - さくらかつきのようになりたい←さん» コメントありがとうございます。そんなに喜んでいただけるとこちらとしても書いていてよかったと思います。近々、第7章を出しますのでよろしければ読んでください。皆様の応援、大変嬉しいです。今後とも、この作品をよろしくお願いします。 (2019年5月18日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
さくらかつきのようになりたい← - BEASTも楽しみにしてます!小泉ちゃんがどう活躍(?)するのか…アッダメだ私の脳じゃ思い付かない…!!(←)コホン…体調にも気を付けて、作者さんのペースで更新して下さい!(← 何か上からで済みません…!!)我々読者は何時までも待ち続けております!!長文失礼しました! (2019年5月17日 20時) (レス) id: 1276fff981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年6月9日 19時

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