【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 6

二百三十四話 ［翅無き身の悲しきかな］ ページ36

凄まじい爆音と共に車が爆発する。
賢治が爆風に吹っ飛ばされる。



「動くな！」



気づけば、周りには特殊装備をした警官が道を塞いでいた。



「包囲完了！これより被疑者を確保します！」



まずい、これは本当に。
舌打ちをしてAは飛ばされた賢治の安否を確認する。
怪我を負っているが、生きている。



「賢治君！」



谷崎が賢治を助けようとする。
が、空気を引き裂くような音にAは谷崎の腕を掴んだ。



「ッ、谷崎さん待って！！」



一瞬だった。
賢治の背中に突き刺さる刀。



『刀が飛行して…しかもあの軍刀は猟犬の…！』



「全員逃げよ！取引は罠！フィッツジェラルドは敵側についていた！」



広津の言葉に、Aは唇を噛み締めた。
相手は警官、最も傷つけたくない相手に一瞬躊躇った。
父と同じ、正義の人。



「ごめんなさい…許して」



だが、次の瞬間には覚悟を決めたように銃口を警官に向けた。
父の姿が、重なる。
引き金を引く時にもう一度、ごめんなさいと呟いて。



「…フィッツジェラルド様、ひとつお伺いしても？」



フィッツジェラルドの会社最上階でオルコットは彼に問う。
彼女が書いた78の作戦提案書のうち74までは政府に探偵社を売る筋書だった。
白鯨落としで政府に睨まれている組合の罪を帳消しにする好機だと。
それなのに、



「何故軍警と取引しなかったのです？」



彼は珈琲を飲み、静かに目を開けた。
敦と芥川に負け、全てを失った時。



「絶望は人から立ち上がる力を奪う。
君が来るまでの数ヶ月組織再建の考えすら浮かばなかった。
…だが探偵社は僅か数十分で立ち上がった、そして今必死で戦っている」



彼は賭けた。



「俺は強い側、勝ちそうな側につく男だ」



だがそれは政府にではない。



「そしてこの勝負、探偵社が勝つ」



フィッツジェラルドは当然のようにそう云いきった。
勝つのは探偵社、だから賭けたのだ。



「故に俺は探偵社側につく。政府に彼等を売りはしない」



その言葉に、オルコットは優しげな笑みを浮かべた。
それでこそ貴方だと云うように。



「…それに、君の作戦提案書の通り"彼女"の異能があれなら」



真の、異能。



「探偵社が勝つ可能性は高くなり、恩を売っておいて損はない」



その為にはまず、知ってもらう必要がある。
彼女自身の、力について。

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