行ってらっしゃい ページ26
「乃坂さん。」
やっと立ち上がった私の背後で、名前を呼んだのは
「…ノサカくん。」
幸か不幸か、彼だった。
「どうしたの。授業、始まっちゃうよ。」
ドアの向こうで、荷物をまとめてこちらに向かってくる西蔭くんの姿が
ぼんやりと見えている。
「あ…うん。」
彼がそのドアに手をかける、一瞬手前に
「映画、行ってらっしゃい。」
彼は目の焦点を少しも合わせないまま
そう言って笑った。
「え、瀬尾っち断ったの？…まぁ、それもそうか。」
そんな声が聞こえるクラスに、赤髪の彼は吸い込まれて行って
なんだか見放されたような、
大切なものを失ったような、
そんな冷たい気分を引きずりながら
私は自分の教室へと黙って入った。
_________あぁ、お弁当、食べてなかった。
その後に頭にハッキリと浮かんだのは
ただそれだけのことだった。
「A。…今日、一緒に帰れる？」
緩やかで、穏やかな波は
今日ばかりは、引いてくれないらしい。
「…うん。」
「そっか。ありがと。」
帰ろうとして彼の教室の前を通りかかった時
すぐ右から聞こえてきたその声に
私は特に何も考えることなく
そう返事をした。
「さっき、ごめんね。急に押し付けちゃって。」
「ううん、いいの。…あれ、私のために取ってくれたの？」
「ははっまぁね。俺、色々考えたんだよ。映画見て、Aの好きなスイーツ食べて、どっかで買い物とかして、シメは…イタリアン？どうよ。」
「ふふ、楽しそう。」
「最近、やっぱりA元気ないなって思ってさ。…顔は笑ってるけど、なんか違うなー、みたいな。だから、週末は思いっきり楽しいことを一緒にしたかったんだ。」
そうやって言う彼の顔は
正真正銘、本物の笑顔で
私に向けられた優しさだって、
もちろん本物に決まっていて
「…どう？一緒に、行ってくれる？」
こんなに分かりやすい彼だから
私はやっぱり、安心してこの心を任せてしまいそうになってしまう。
「うーん…。」
「お願いっ！絶対、楽しませるよ。」
だけど、彼のこの無邪気な笑顔と
“映画、行ってらっしゃい。”
頭の遠くで鳴った、誰かの声に背中を押されて
「…分かった。じゃあ、行く！」
私は笑って、こう返事をした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 308人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
橋本アリィちゃん(プロフ) - とても泣けました！こんな感動作品を作って頂きありがとございました！今後とも応援しています！(*´ω｀*) (2021年11月4日 7時) (
レス) @page39 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
くゆぃ - この物語を生み出してくれてありがとうございます。余命あと1年で、辛くて仕方なかった時、まさに今、イナズマイレブンに出会って、野坂悠馬君が好きになって、あなたの小説を読ませていただきました。いなくなる前に、この小説を読めてよかった。よかった。ありがとう (2021年8月6日 23時) (レス) id: 47b282db84 (このIDを非表示/違反報告)
むい - ほんっとうにこの作品が大好きです！何度も泣かせていただきました。この小説が、命について深く考えるきっかけとなりました。最後に、本当に大好きです。ありがとうございました！ (2020年9月7日 14時) (レス) id: b5b9338b39 (このIDを非表示/違反報告)
ふるる。(プロフ) - 初コメ失礼します、ふるる。です！すっごくこの小説好きでした！命って大切だなと思ったし新しい生き方も学びました。完結おめでとうございます！ (2020年4月25日 10時) (レス) id: 28f80b2ad3 (このIDを非表示/違反報告)
岡部 愛(プロフ) - この作品であなたを知り、一気に最後まで読みました。しかし言葉が出てきません。とても好きで、好きだという気持ちをなんと表現したらいいか分かりません。この作品でたくさん泣きました。あなたの他の作品も是非読ませていただきます。 (2020年4月25日 8時) (レス) id: fa9bcb142e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年4月4日 9時
