お世辞言葉 ページ13
「…それ、美味しいよね。」
この沈黙をどんな言葉で破ろうか、頭をフル回転させて考えていた時
彼は唐突にそう言った。
何のことか一瞬分からなかったけれど
彼の目線を辿って、その答えに辿り着く。
「あぁ、これ。飲んだことあるの？」
「うん。スイカ味より、美味しい。」
「ははっ本当に？…あ、連絡…。」
ようやく、ノサカくんとの沈黙が賑やかに変わりはじめたという時
空気の読めない携帯の通知が、私の手元で鳴った。
「ここなら人が少ないから、電波も通るみたいだね。早く行った方がいい。きっと、みんな心配して待ってるよ。」
「うん…そうだね。」
すっかり冷め切ってしまった焼きそばは、みんなの元で食べることにしよう。
そんなことを能天気に考えながら、携帯の文字盤を打って連絡を返した。
その間に再び走り出した沈黙は、ついさっきとは打って変わって
不思議な安心感に満ち溢れるものだった。
「乃坂さん。」
私が携帯を閉じると同時に、彼は言った。
「浴衣、似合ってるね。」
あまりにも唐突に言われた言葉に、
私は一瞬頭が真っ白になったけれど
「あ…ありがとう。」
その直後に私を襲ったのは、全くもって純粋な嬉しさと恥ずかしさだった。
瀬尾くんが言った時は、何も思わなかったはずなのに
こんなにも昂ってしまうのは、きっと花火のせいだろう。
花火の、せいにしても。
_________あれ、おかしいな。
たったそれだけのお世辞言葉に
どうしてこうも、頬に熱がこもるのだろうか。
「みんなは、どこにいるの。」
「あ、えっと…南ゲートのすぐ近くだって。私、もう行かなくちゃ。」
そんな、不可抗力の赤面を彼には絶対に見られたくなくて
どうにかしてそこを、いち早く逃げ出したくなった。
「近くまで送ろうか。」
「いや、いいよ。一人でも大丈夫。」
「でも君は、迷ってここに来たんでしょ。」
「…けど、」
「もしここで僕が君を一人で行かせたとして、君がまた迷子にでもなったら________。」
なのにこの人は
こんな時に限って、私を逃してはくれない。
「僕のせいみたいになるでしょ。」
そう言った彼の表情は、やっぱりまた笑っていた。
彼の表情は、いつも笑顔ばかりだったけれど
その笑顔の中に、喜怒哀楽が全部隠れているようで
私はそれがどこか、寂しかった。
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橋本アリィちゃん(プロフ) - とても泣けました！こんな感動作品を作って頂きありがとございました！今後とも応援しています！(*´ω｀*) (2021年11月4日 7時) (
レス) @page39 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
くゆぃ - この物語を生み出してくれてありがとうございます。余命あと1年で、辛くて仕方なかった時、まさに今、イナズマイレブンに出会って、野坂悠馬君が好きになって、あなたの小説を読ませていただきました。いなくなる前に、この小説を読めてよかった。よかった。ありがとう (2021年8月6日 23時) (レス) id: 47b282db84 (このIDを非表示/違反報告)
むい - ほんっとうにこの作品が大好きです！何度も泣かせていただきました。この小説が、命について深く考えるきっかけとなりました。最後に、本当に大好きです。ありがとうございました！ (2020年9月7日 14時) (レス) id: b5b9338b39 (このIDを非表示/違反報告)
ふるる。(プロフ) - 初コメ失礼します、ふるる。です！すっごくこの小説好きでした！命って大切だなと思ったし新しい生き方も学びました。完結おめでとうございます！ (2020年4月25日 10時) (レス) id: 28f80b2ad3 (このIDを非表示/違反報告)
岡部 愛(プロフ) - この作品であなたを知り、一気に最後まで読みました。しかし言葉が出てきません。とても好きで、好きだという気持ちをなんと表現したらいいか分かりません。この作品でたくさん泣きました。あなたの他の作品も是非読ませていただきます。 (2020年4月25日 8時) (レス) id: fa9bcb142e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年4月4日 9時
