花の前の一雫 ページ12
花火が始まるまで、あと二分もない距離を
私は急いで駆け上がる。
浴衣と下駄に、窮屈な思いをさせられながら
たった一人で、走る。
「3、2…」
遠くの会場で聞こえるカウントダウン、
「1…！」
夜空に咲く大輪の手前に
「………あ…。」
静かに灯る誰かの影。
「…え？」
私がもう、耐えられない
この人の、影。
花が開く瞬間を見たい一心で駆け上がった私は
花の前の一雫に、一瞬で心全てを奪われた。
「……どう、して？」
私の、少し荒くなった呼吸が
花火の音よりも一つ、前のレイヤーで反響する中
主役であるはずの眩い火花は、
私たち二人を前にして単なる背景と化した。
そのくらい、彼の存在は強かった。
「…このあたりで練習試合があったから、そのついでで寄ったんだ。」
「そっ…か。お疲れ様。」
「ありがとう。君はまさか、一人で来たんじゃないんだろ？」
彼はうっすらと笑いながら、そう言った。
相変わらず、哀しい笑顔だった。
「あ、うん。瀬尾くんたちと一緒に来たんだけど…はぐれちゃって。」
「そうなんだ。彼、いい人だよね。」
「…うん。」
ノサカくんと瀬尾くんは同じクラスなのだから、何らかの交流があって当然だ。
どのくらい仲がよくて、どんな話をしているのかは
私には全く想像もできないが。
沈黙がどこかもどかしいけれど、
そこにひっそりと佇むベンチに腰掛けられるほどこの空気が柔らかいものでもない。
何をどうしたらいいのか分からなくて、
私はとりあえずりんご飴を一口かじった。
「野坂くんも、ここ知ってたんだね。」
その甘酸っぱさに後押しされて、やっと私の口から言葉が飛び出る。
「…うん。昔、人に連れられて来たことがあったから。」
「はは、一緒。私はお父さんが教えてくれたんだ。」
「そうか。」
彼は黙って、花火を見ていた。
瀬尾くんとの沈黙は心地がいいのに
この人との沈黙は、心がずっしりと重くなる。
だけどこの重さは、ただ気まずいから生まれてくるものではなくて
ただ何となく、意味があるような重さだった。
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橋本アリィちゃん(プロフ) - とても泣けました！こんな感動作品を作って頂きありがとございました！今後とも応援しています！(*´ω｀*) (2021年11月4日 7時) (
レス) @page39 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
くゆぃ - この物語を生み出してくれてありがとうございます。余命あと1年で、辛くて仕方なかった時、まさに今、イナズマイレブンに出会って、野坂悠馬君が好きになって、あなたの小説を読ませていただきました。いなくなる前に、この小説を読めてよかった。よかった。ありがとう (2021年8月6日 23時) (レス) id: 47b282db84 (このIDを非表示/違反報告)
むい - ほんっとうにこの作品が大好きです！何度も泣かせていただきました。この小説が、命について深く考えるきっかけとなりました。最後に、本当に大好きです。ありがとうございました！ (2020年9月7日 14時) (レス) id: b5b9338b39 (このIDを非表示/違反報告)
ふるる。(プロフ) - 初コメ失礼します、ふるる。です！すっごくこの小説好きでした！命って大切だなと思ったし新しい生き方も学びました。完結おめでとうございます！ (2020年4月25日 10時) (レス) id: 28f80b2ad3 (このIDを非表示/違反報告)
岡部 愛(プロフ) - この作品であなたを知り、一気に最後まで読みました。しかし言葉が出てきません。とても好きで、好きだという気持ちをなんと表現したらいいか分かりません。この作品でたくさん泣きました。あなたの他の作品も是非読ませていただきます。 (2020年4月25日 8時) (レス) id: fa9bcb142e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年4月4日 9時
