お題3:秘密なんてだめだよ F ページ26
静まり返る夜の廊下。
バスタイム上がりでそのまま自室に戻ろうとした時だった。
『あれ…?』
奥の青い扉だけ少し光が指していた。
吹雪の部屋だ。
そっと彼の部屋の前まで近寄ってみると、カタカタとなにかを打っている音。
その隙間から静かに覗いてみると、彼はパソコンの前でなにかをしている様子だった。
普段のサングラス姿ではなく、黒い縁のメガネをかけて真剣な表情で画面と向き合うその横顔に私は思わず息を飲んだ。
しばらくその彼の姿を眺めてたが、ハッとして気づかれないようにそっと自室に戻った。
---
今日は満月。
4人はいつものようにその日だけは遠出に行ってしまい、私はお留守番だ。
あの時みたいに化け物がここに来ることはなくなったが、それでも少し寂しいな。と感じて毛布をぎゅっと抱きしめてみる。
窓から月の光が指していて、私はその満月をじっと見つめた。
--ワォォォォン!
『…!』
窓越しから遠くに聞こえる、聞き慣れた遠吠え。
きっと吹雪だ。
私は窓を開けて周りを見渡す。
遠くに小さな影が一つ伸びていた。
背中を丸めて月に向かってもう一度遠吠えをしている。
あのよく通った力強い声は吹雪で間違いない。
だけど私は彼に声をかけようとはしなかった。
彼の普段見せない姿を少しでも長く見ていたかった。かっこよくて、見惚れるその姿。
彼はふとこっちを振り向いた気がした。そのままその4足歩行で俊敏に森の奥へと消えていった。
---
満月の後の彼は部屋に籠もりっきりになる。
きっと理性が効かなくて吸血鬼狩りに手を出したり、食べているせいなんだろう。
彼はそういうことが好きではなくて、自分がやってしまったとわかると落ち込んでしばらく部屋から出てこない。
だけど今日もその部屋の扉から光が指していて、私はその隙間から彼の姿を覗いた。
『…っ!』
近くでサングラスをかけている彼と目が合う。
「前から視線感じるって思ったけど、Aちゃんだったの?」
無表情に近い彼に私は思わず、息を飲む。
『ご、ごめん、なさい…故意ではなくて…っ!?』
突然彼に腕を掴まれて部屋に引きずり込まれる。
ダンッ、と壁に押し付けられて彼はサングラスを外した。
青く輝く目が真っ直ぐ、私の目を合わせてくる。
「なんで隠してたの?秘密なんてダメだよ、Aちゃん」
『だ、だって、その…か、かっこいいなって』
「だーめ、いるならちゃんと言ってくれないと…」
彼はそっと私の首元に顔を埋めて、そこに牙を立てた。
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作者名:もちぷよ | 作成日時:2023年1月1日 22時