明智のち天海 〜死神たちの短編集〜

幸せな食事1 (戦国) ページ31

貴)天海様、いらっしゃいますか?

部屋の前に正座して声をかける。

天)Aさんですか?

貴)はい、そうです。入ってもよろしいですか?

襖がすーっと開けられたので見上げると天海様が私に微笑んでいた。

天)もう昼ですか...

私が持っていたお盆の上にあるものを見てそう言った。

貴)あの...今日は秀秋様にご指導していただいて私が鍋を作ってみたのでお口に合うかわかりませんが...

鍋の具が入った器に視線を落とす。
秀秋様は鍋へのこだわりがすごいので作るのに少し時間がかかってしまった。
具材の切り方、鍋に入れる順番などそれはまぁ細かい指導が入って...
正直、上手く出来ているか心配だ。

天)おや、それは楽しみです。

私からお盆を受けとると襖を閉めた。
天海様はいつも仮面をつけて素顔は決して見せない。
だから、食事の時はいつも1人。
どうして顔を隠すのか理由はわからないが、きっと見せられない事情があるのだろうと深く詮索せず、いつもお盆を渡して自分の持ち場に戻る。
いつも一人きりで食事をする天海様は寂しくないのかと思いながら...

貴)天海様!

私は部屋の奥に入ってしまった天海様に声をかけた。

貴)私もここでお昼を食べてもよろしいですか?



静寂が続く。



私は耐えきれず、口を開いた。

貴)あの... 天)いいですよ。

貴)えっ...

天)感想を聞きたいのでしょう?

部屋の中からカチャカチャと食器の音が聞こえると暫くして天海様のクスクスと笑う声が聞こえた。

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