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体が反射的にビクッとする。
来ないで。
帰って。
気づかないで。
ドクンドクン心臓が鳴る。
「すみません。あの、ここに、これくらいの身長で、女子中高生位の子、通りませんでしたか?」
声が近い。
多分よりにもよって、私を抱きしめてる人に聞いている。
女子中高生やないわ、といつもならツッコミするけど、そんな心境じゃない。
「いいや。女子中高生は通ってないよ。」
「制服じゃなくて私服なんですけど。」
「じゃあ、あっちに行ったかな?」
「ありがとうございます。」
タッタッと走り去る音がする。
しばらくすると、ポンポンと背中を撫でるように叩かれて、ハッとした。
「彼、見えなくなったよ。また戻ってくるかも知れないから、余計なお節介じゃなければ、家まで送って良いかな?」
顔を上げると、忘年会で見た人がいた。
『十さん・・・』
十さんはニッコリ笑って私を離してくれた。
「ご、ごめんね。女の子なのに勝手に抱きしめちゃって。」
駅までの道を一緒に歩きながら、十さんがマスクの下に真っ赤な顔を見せて言った。
なんとかビーストとか言われてるけど、抱きしめるだけで赤くなるなんて意外。
さすがに有名人に電車に乗って送ってもらうのは申し訳なくて、でも自転車をアパートの最寄り駅に置いてるからと、駅まで送ってくれることになった。
『いえ。助かりました。あのままだと見つかってたんで。・・・もうちょっと考えれば良かったです。』
多分、先輩の家がこの辺だと予測がついたんやろうな。
先輩の露出が多くなった今、テレビがなくても、自然と情報は耳に入ってくる。
さすがに家までは特定されないだろうけど、ネットで調べれば何とかなるかも知れない。
【もしかしたら・・・おばあちゃんも・・・】
どっちにしろ、もうIDOLiSH7の寮にも先輩の部屋にも行けないか。
となると、IDOLiSH7はともかく、先輩にはある程度事情を説明した方がいいな。
なんて言おう。
「お節介ついでに、1つ聞いても良いかな?」
『・・・はい。さっきの人ですよね。』
気になるのは当然だ。
あれは誰か、どうして追いかけられていたのか。
そういう事だろうな。
「それもだけど・・・誰かこの事を知ってる人はいるの?」
『え?』
「逃げてるのは怖かったり嫌だったりするからだよね。Aさんの安全は確保できる?」
『・・・十さん・・・』
・・・私の事を考えてくれてるんだ。
心が熱くなって、温かいものが広がっていく。
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作者名:miz | 作成日時:2020年4月15日 21時