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『女生徒』 7 ページ8

お客さんが来てから二日程経った今日は、金曜日。

最後の授業が終わった後、直ぐに図書室に向かった。黒子先生はもう来ていた。

本を読んで待っていたらしい。扉を開けた音に気付いて、顔は入り口――私のほうを向いているけれど、手には開いたままの本が、そして先生の二つの瞳は、薄いレンズ越しにこっちを見ていた。

驚いた。先生も眼鏡かけるんだ。

それがわかると、前の部活のときに、私だけにあんな質問した先生が不思議で、なんだかおかしくって笑っちゃって、わたしと全く同じだから、ちょっと気恥ずかしくって、ちょっと嬉しくって。

先生に謝らなきゃ、と少し緊張して図書室に来たのに、それも吹っ飛んじゃった。

入ってくるなり笑った私を、先生は不思議そうに、小首をかしげていたけど、なんだか分からないまま、柔らかく微笑んで、優しく「こんにちは」といった。

「こんにちは、先生」

私はまだ笑ってた。先生の向かい側の、いつもの定位置に腰を下ろすと、自分のかけている眼鏡の渕をトントン、と軽く叩いて見せた。

「先生も眼鏡、かけるんですね」

先生は何で私が笑っているかわかったようだ。

「はい。日常生活に支障はありませんが、授業や読書中はかけた方が見やすいし、かけていないと、たまに後ろの席の子がはっきり見えないことがあるので」

やっぱりだ。

止まりそうだった笑いが、またこみあげてくる。

「私と一緒です。私も授業中と本を読むとき以外つけないんです。
放課後はたいてい図書室で本読んでるので、眼鏡つけっぱなしでここまで来るんですよ。
先生、知ってました?」

ああ、この顔は知らない顔だ。

「いいえ、知りませんでした。
じゃあ、笹草さんは僕が眼鏡かけること、知ってました?」

「いいえ、知りませんでした!」

お互い、初めてしったこと。そりゃそうだ。だって部活でしか会わないし、私は部活ではずっと本を読んでいるし、先生はそんなわたしを見ているか、一緒に感想や解釈を言い合ったりしているから、私は眼鏡をかける必要があって、先生は見たり話したりするだけだから、眼鏡をかけなくてもいい。

それが、今日はたまたま、先生の方が速く図書室についていたから、私の方が遅く図書館についたからわかったんだ。

まだ笑い続ける私につられたのか、先生も笑いだした。

それからしばらく、いつもは静かな図書室に、二つの笑い声が響いた。

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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時

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