『女生徒』 8 ページ9
ひとしきり笑い終わったら、私は先生に向き直った。
「先生、この前は失礼なこと言ってすみませんでした」
さっきまで笑っていたのに、急に緊張してきた。
「女の子はみんな、『女生徒』の主人公みたいな子じゃない、なんて、先生はそんなこと一言も言ってなかったのに、勝手に思い込んで、怒ってしまって――
「そんなこと、気にしなくていいですよ」
「でも、
「本当に、気にしないでください。そんな顔しないで、笑っていた方がいいですよ。幸せ逃げちゃいます」
笑って許してくれる先生に、ありがとうございます、と呟く。
昨日のことを思い出した。
「私、五年前に父を無くしたです」
決して軽くはない事実に先生は目を見張った。
「一昨日、私の家にお客さんが来たんです。母の会社の上司夫妻で、一緒に夕食を食べて、しばらく話していたんです。
お客さんは、私の作ったご飯を褒めてくれたけど、ちっとも嬉しくなくて、いつもはおいしいって言ってくれる母もなんだか違う人みたいで。その奥さんに、まだ小さかったのにお父さんを無くして辛かったね、って言われたんです。
私、それがすっごく嫌で、お父さんを馬鹿にされたみたいで無性に腹が立って、早く帰って欲しいって思ったんです」
『帰って下さい、帰って下さい。私の父は、立派なお方だ、やさしくて、そうして人格が高いんだ。お父さんがいないからって、そんなに私たちを馬鹿にするんだったら、今すぐ帰って下さい。』
「そんなこと相手に言えるわけなくって。でも、考えてみたら、私、『女生徒』の主人公と一緒だったことに気づいたんです。
先生にあんなこと言っておきながら、同じこと思ってる自分が、なんだかおかしくてちょっとすっきりしたんです」
変なの、と笑って見せると、先生は反対に悲しそうな顔をした。
「すみません。そうとは知らずに、『女生徒』を選んでしまって…………無神経でしたね」
「先生こそ、気にしないで下さい。私、全然気にしてませんから」
「先生、前に、主人公がもう二度と会うことができない『王子様』のことで話したの、覚えてますか?あれ、私もう一度考えてみて、思ったんです。
主人公の王子様は、お父さんだったんだと思います。
もう二度と会うことの出来ないお父さんが、恋しくて、空に向かって呼びかけたんだ。きっと、そうだ。
「とても素敵な、貴女らしい解釈ですね」
金曜日の放課後は、こうしてゆっくりと過ぎて行った。
『女生徒』 完
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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時