『マルレネ・ディートリッヒ』 5 ページ21
金曜日。
いつもなら、早く放課後になれば良いのに、なんて思ってたけど、今日は逆だ。時間なんて止まってしまえばいいのに。
今は四時間目。どうあがいても時計は六十秒ごとに針を進める。昼休みまで後数分だ。
ああ、昼休みだけ飛ばして放課後になってほしい。
無茶苦茶なことを真剣に考えながら、私は今日の朝のことを思い出していた。
「笹草さん!」
朝のホームルームが終わった後、普段はあまり喋らない担任の先生に「ちょっとこっち来て」と手招きされた。
「何ですか?」
教室の外に出て、あまり人のいない廊下まで来た。私、何かしたっけ?
「夏休みの読書感想文、全国コンクールで入賞したのよ!
文部科学大臣賞ですって、すごいわ、笹草さん!」
熱湯が身体に注ぎ込まれたように、急に体温が上がった気がした。顔が赤くなるのがわかる。多分、今真っ赤だ。
どうしよう、すごく嬉しい。文章を書くのは得意だったけど、それが認められた気がして、背中に羽が生えたようにふわふわとした心地だ。
今年最高の喜びではないか、と思っていたが、担任の先生の次の言葉で気分が急降下した。
「今日の五限目の集会でその表彰があるから、壇上まで上がって、校長先生から賞状とトロフィー受け取ってね!」
熱湯の次は氷を背中に詰め込まれたような感覚に陥った。冷や汗で背中がぐっしょりと湿る。
『集会』『表彰』『壇上』の言葉が頭の中をぐるぐる回る。駄目、無理、そんなの無理、絶対出来ない。
人前に立つのが何よりも苦手で、何回か表彰されたときもガチガチだったのに、後数時間後とか絶対無理だ。きっと何かやらかす。
顔面蒼白の私の心はつゆ知らず、担任の先生は「おめでとう、頑張ってね!」と言ってどこかへ行ってしまった。
「はぁぁぁ」
時間は止まることを知らず過ぎて行き、五時間目の集会まであと少しだ。
どうしよう。仮病でも使って保健室行く?駄目だ、流石に良心が痛む。
腹をくくる他無いのか。
二回目の大きな溜息をついて、私は集会が行われる体育館へと向かった。
足取りが重い。
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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時