「女生徒」 2 ページ3
高校を卒業した後、僕は、都内の大学に進学して、教育免許を凝った後、また誠凛高校に帰ってきました。
今度は、生徒としてではなく、教師として。
相変わらず影が薄くて、良くびっくりされますが、一人だけ、違うんじゃないかと思う生徒がいます。
その生徒が目の前にいる、笹草文香さんです。
担任でも、教科担任でも無いけれど、僕が担当する図書委員会の図書委員であり、顧問である図書文芸部の、たったひとりの部員。
何も話しかけなければずっと本を読んでいるような子ですが、本を読んでいる間は表情がコロコロ変わって、とても面白い子です。
「『女生徒』、どうでしたか?」
今現在、彼女が手にしている一冊の文庫本――――『女生徒』太宰治著――――は、昨日僕が彼女に選んだものだ。
さっきまで少しむくれていた彼女の表情がパッと明るくなって――――
「とても面白かったです! 見えないおしゃれに気を使う主人公のかわいらしさや、少女ならではの発想力の豊かさが、繊細に描かれていて、まるで自分が『女生徒』になった気分でした」
思わず笑ってしまった。
「笹草さん、貴女も『少女』で、『女生徒』ですよ」
「……それは、そうですけど。そうじゃないんです!」
また、怒らせてしまった。
きっと、今、貴女は頭の中で間違い探しをしているのでしょう。
あれは違う。これも違う。でも、これはあっている。
そんな彼女は、見ていてとても微笑ましい。
「女生徒は、太宰治の著書の中でも有名な作品の一つで、男性ながらも、少女独特の感情や価値観、繊細で、少しませた心を細やかに描き表されています。
子供でもあり、大人でもある。大人でも無く、子供でも無い。まだ知らないことや、汚れの無い瞳では見えない嘘に疑問を持っている一人の少女でもあるけれど、清濁を一緒に飲みこんで耐える一人の女性でもあります。
大人と子供の間で揺れる真っすぐな心を、大人の、それも男性が本にしたのはすごいことだと思いませんか?」
「素晴らしいと思います」
はっきりとした返事がすぐにかえってきた。『女生徒』を優しく撫でながら、目はこちらを食い入るように見ている。
「作中に主人公が自分の両親のことを、『醜いところの無い、美しい安らかな夫婦』と表現した後、『ああ、生意気、生意気』と続けるのがおかしくって、つい笑っちゃいましたけど、でもその気持ちが分からなくもないですし」
確かに途中、笑ってましたね。
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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時