図書室での秘密 (ページ4)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:1,285 hit

「女生徒」　３ページ4

小生意気な少女が、大人のことを生意気、なんて。おかしくって笑っちゃったけれど、わかる気がする。私もたまに、たまーにだけれど、お母さんに生意気、なんて思うことだってあった。

「最後の一文の、『私は、王子様のいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか？もう、ふたたび、お目にかかれません。』は、シンデレラみたいになれるのは一握りの存在で、現実はそんなにドラマチックじゃないって言ってるんでしょうか？」

女の子なら、一度くらいは憧れたことがあるんじゃないか、っていうシンデレラ。王子様がいないのでは、意味無いじゃん。

「それも一種のとらえ方だと思いますよ。でも、自分のことをシンデレラ姫、と思ってみたりするのですから、夢を見ている少女、という感じもありますね。シンデレラは女の子の憧れ、という概念が、太宰治が生きた時代にもあったのでしょうね。

『もうふたたび、お目にかかれません。』ということは、一度はあっているのでしょうか」

ああ、やっぱり、先生の解釈は面白くて、豊かで、聞いていてすごく好き。

シンデレラに憧れて事がある女の子がいるのは、今に限った事では無いんだ。太宰治が生きた時代から、といっても百年もたって無いけれど、そんな時代には、もう、シンデレラは女の子の憧れの代名詞だったんだ。

先生と話していると、本以外の事も知れて面白い。

「会ってるんじゃなくて、自分の理想の王子様に言ってるんじゃないですか？」

「あ、その解釈もいいですね」

先生は目を細めて笑った。

ふと、その目を、眼鏡越しにのぞいてみる。真っ青では無いけれど、澄んだ春の空みたいにきれいで、涼やかな目をしている。

「先生の目、とってもきれい」

思わず声に出てしまった。言うつもりなかったのに。

「そうですか？ありがとうございます」

あ、また笑った。先生は良く笑うなあ。

それに対して私の目は真黒だ。暗くは無いけれど、もっと違う色が良かった。

主人公は、家へ帰る途中ずっと青空を見ていたら、帰った後、鏡を見ると、自分の目がとてもきれいな青色に見えたらしい。

私もこの後、帰るまでずっと空を見ていたら、きれいな青い目に変わるかな。なんて、おかしなことを考えてみる。帰るときには夕方で、青空じゃないし、電車で帰るから無理だ。

「笹草さんも眼鏡をかけていますが、笹草さんは主人公のように、眼鏡は嫌いですか？」

先生の質問に間髪いれずに答えた。