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『こころ』 6 ページ15

「先生」

今日は、先生が目の前にいる。だから、呼んでみた。

先生は、読んでいる本に視線を向けたまま聞き返した。

「何ですか?」

でも、ただ呼んでみただけ、なんてことは言えなくて。

誤魔化しのように、頭に浮かんだ疑問を投げてみる。

「先生は、恋は罪悪だと思いますか?」

蝉の鳴き声が嫌に近く感じる。まるで私の耳にくっ付いているみたいに。

そんなに鳴かなくても聞こえているから、だからどうか、鳴かないで、泣かないで。

私は先生にこんなことを聞いて、何がしたいのだろうか。なんて言って欲しいのだろうか。

先生に、恋は罪悪なんかじゃないって否定して欲しいの? 昨日、何で『先生』が、夏目漱石が『恋は罪悪』だなんて書いた理由を考えて、理解したのに。わざわざ、自分で出した答えを壊してもらいたいの?

うん。そうだ。否定して欲しいんだ。

先生の思った解釈、いや、先生が思う恋で、私の思った恋を描き変えてほしいんだ。パソコンみたいに、上書き保存して欲しい。

私、こんなドロドロしたこと、考える子だったっけ? 『こころ』を読んで、暗くなった? 卑屈になった?

駄目だ。本のせいにしていたら、罰が当たる。

そもそも、恋をしたことの無い私に、理解出来るほどの技量は無かったのかもしれない。

ああ、また恋もせいにしている。何かのせいにしないと生きていけないのか、私は。

恋という曖昧なもののせいにせず、苦しみながらも生きた『先生』とは大違い。比べるのも失礼ですよね。先生。

「そうですね」

否定とも肯定とも取れない返事の後、先生は一瞬だけこっちを向いた後、何とも表現できない様な笑みを零した。

「恋は、罪悪ですよ」

ああ、やっぱり罰が当たったのかもしれない。

だけど、不思議なことに、私の手は吸い寄せられるように、原稿用紙に向かい、一行目の二マス目から、何も聞かなかったのかのようにごく自然に動き出した。

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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時

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