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岡都々喜たる自分自身 ページ10

前作は詐欺を題材にした作品だった。

オレオレ詐欺という昔からありながら変化を続ける犯罪に関わる人々、彼らを取り巻く環境、犯行に至るまでの思考、己の生活と倫理を天秤に掛けた葛藤、正義を掲げて奔走した先にある救いようのない行き止まり。
一見平和に見えながら、すぐそこにある詐欺という負の集合体。

列挙した単語の一つひとつが仄暗い影を落とすが、作品の雰囲気はダークじみたものではなく、むしろ夏の向日葵畑を連想させる明るさがあった。
それもそのはず。地上の太陽が浴びる光が強ければ、伸びる地面の分身も濃く染まる。そしてそれは、日射時間が長い季節だからこその暗喩であった。

タイトルの【まつわる箱庭、鋼の宿】は瞬く間にメディアを駆け巡った。文芸誌の掲載からはじまり、登場人物への考察や現代社会への痛烈な皮肉。中には二次創作まで生まれたらしい。

そんなこと知る由もない原作者はボケっとしながら次の題材を考えていたわけだが。


「詳細はまた後日、編集部の方から連絡させていただきます」

「あ、ハイ。分かりました…」

「では」


それだけ言い残し、颯爽と踵を返した繋ぎ役の背を見送った。

実感が湧かない、ふわふわとした体感のまま人混みに紛れ込む。

脳内を占めるのは、たった今言い渡されたノミネートの内容だった。執筆を生業とする者は誰しもが求め、推薦一覧に名を連ねるだけでステータスとされる。

もちろん、名は知っていたが名誉だ肩書きだというものにはとんと無頓着だった。書ければいい、が第一だったもので。

根無し草の自分にまたもや根っこができたような気がした。ただ、今回は根を張るというより、絡め取られるような感覚とでもいえばいいか。

仮に、賞を受賞したとなると自分はどうなるのだろうか。今まで通り、気楽にものを書くことができるのか。

幕府の重鎮さえも岡都々喜(じぶん)の書物を読みたがる。その過去が血塗られたものだと知られれば、己はおろか出版社さえもただではすまないだろう。


「……はぁ、」


小さくとも重い息が出た。胸の奥に、何やら鉛のようなずっしりしたものが落ちた気分だった。

今日はもう帰ろう。書店には寄れたし、一応の目的は達成した。

ざり、と草履を家の方面に向ける。低い雲が屯する空の下。夕立が来そうなほど暗い顔色をしている。

ざ、ざっ、と駆け足気味に家路を急ぐ。追い立てられているわけでもないのに、自然と息が上がった。


ぽつ、と粒が、空から降った。

拾ったのはかぶき町の女帝でした。→←路地裏の眼鏡たち



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スミカ - 物凄く面白いです。高杉との絡みが最高に好きです!決して行き過ぎたチートじゃないとこも好きです。応援してます (4月13日 17時) (レス) @page19 id: daf320e252 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:pillow | 作者ホームページ:   
作成日時:2024年2月17日 21時

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