一寸先は鷹の嘴【銀魂】 (ページ30)

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その頃。

開いた屋根から飛び立たんとするヘリはプロペラを回し、バララララと空気を裂いて飛行態勢を取る。

ハンドルを握るのは、攘夷党の頭である大橋。ドアをくぐって入る鶴森の様子を見て、連れてくるはずの子どもが居ないことに気づいた。

「鶴森様、例の子どもは」

「ああ、余の子飼いは主人の元に戻った。

が、いずれまた取り戻す。今は機ではなかった、それだけのことよ」

「鶴森様の御手を離されるなど、さぞかし不肖の身にございましょう。気にされることはありませぬ」

「いや、あの子はそうそうおらぬ。白雪のような柔肌に瑠璃色の瞳、滅多に目にかかれぬ上物だった」

「ふむ」

そんな奇特な外見をした子どもはいただろうか、と首を傾げる頭は、小沢の搭乗を確認してドアを閉めた。

ハンドルを操作し、ゆっくりと浮上する機体に浮遊感を感じながら、ネオンで煌めく江戸の街を見下ろす。

「けばけばしいものよのう。余はもう少し、淑やかな外見を好む」

「ならば、武州はいかがでしょう。空気も美味い、素朴な田舎にございます」

「悪くない」

どうやらご機嫌は取れたようだ。愉悦に浸る幕臣をバックミラー越しに見やり、高度を上昇させる。

すると、がくんと機体が傾いた。何事かと計器を確認すると、エンジンにエラーが起きたようだ。

「なにごと!!」

「エンジンが壊れた模様です。一度着陸しなければ、墜落してしまいます!!」

「ええい、早うせい!! ここを勘づかれるのも時間の、」

「いえ、もう遅いでしょう」

そう提言した小沢の目線は、倉庫の周辺を覆うようにして止まるパトカーに釘付けられていた。

赤い提灯にツートーンカラーの車は、間違いなく真選組のものだった。

「猿どもめ、いつからここを」

「分かりませぬ。ここは海に着陸するほかございません!!」

「やめろ、余は泳げぬのじゃ!」

「そうは言いましても……」

声を発したのは、誰だったか。

高所から叩き落とされるような、例えるならばジェットコースターの浮遊感。

窓の外では、回転しながらブーメラン宜しくどこぞへ飛んでいくプロペラが見えた。

ああああ、と情けない叫び声と共に、ヘリコプターは元いた搭乗口に呆気なく墜落。

見るも無惨な機体の残骸に身動きが取れない三人の首元に、切っ先が突き付けられた。

「鶴森齋元、連続児童誘拐事件の容疑者としてご同行願おうか」

それは、紛れもない敗北宣言。

淀んだ空に浮かぶ雲が、鋭利な鷹を月明かりと共に隠した。