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「 実は僕ね、わがままなんだよ? 」
少々の沈黙の後口を開いた彼は 、そんな唐突なことを言った。
わがまま、そんなことを伝えて彼はどうするつもりなのだろうか。
「 わがまま、ですか? 」
「 うん 」
「 ... たとえば? 」
「 欲しいものは、全部欲しい。手に入れたいと思ってしまうんだ。ふふ、わがままでしょ? 」
「 __ そ、ですか?私は普通だと思いますよ 」
「 だからぼくはね 」
意味有りげにそこで言葉を切った 英智先輩は、優しく
それでいて妖しく微笑んだ。
優美な瞳の中の光に吸い込まれそうになって 慌てて首を振った。
それで、また見つめ直して。
私たちの間に 夏の蒸し暑い風が吹いた。
じんわりと背中に冷や汗が滲む。
英智先輩の口の動きを、ゆっくりと追った。
「 きみが、欲しいんだよ 」
背筋が凍ったように体が動かない。
金縛りにあっているわけではない、声をかけたいのに身体を動かしたいのに
... 本能が動いてはいけないと言っていた。
「 綺麗なきみが欲しい、美しいきみが 」
ああ、また
「 すきなんだよ、僕は 」
ずるい、
ずるいですよ、せんぱい。
優しい瞳で、微笑みで。
可愛らしく微笑まれたら、きっと私はNoを告げる事が出来ない。
それもきっと、解っているんだろう。
「 それは、Loveですか、Likeですか 」
__ 可愛くない自分。
もっと普通の女の子みたいに 頬を染めるとか、目の端に涙を溜めるとか。
そういうことが出来ないのだろうか。
腕を引かれて、ベッドの上に座っている英智先輩の腕の中に収まる。
思ってたより厚い胸板と、広い背中。
綺麗な鎖骨に、滑らかな肌。
病院着から覗く白い肌に 小さな刺し傷が見えた気がした。
「 Love 、って言ったら 引いちゃう? 」
私は小さく首を振った。
少し視界が曇って、前が見えなくなる。
「 愛を、たくさんあげるから。僕がきみのことを、愛してあげるから。 」
「 … 」
「 まだ
「 いえ、 」
「 だったら。僕の彼女になってください 」
少し腕に力がこもる。
私の髪を緩く梳く手が、小さく震えているのに気づいた。
ああ、暑いな。
じわじわと顔に集まる熱が、全ての体温。あたしの、全ての。
私は小さく、でも確実に頷いた。
愛は要らない。
この日々が、貴方がきっと。
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MinT(プロフ) - さくやーさん» わわ、閲覧ありがとうございます (^-^) そう言っていただけて何よりです!!! (2017年5月30日 9時) (レス) id: 2b0d780a77 (このIDを非表示/違反報告)
さくやー - 読ませていただきました!!とても面白かったです!英智様最高です! (2017年5月30日 1時) (レス) id: 5ce56128e2 (このIDを非表示/違反報告)
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