愛の一日目 ページ9
「それで? 手前はそこでじっと見てるだけでいいのかよ」
『はい』
テキパキと執務作業を進める彼を、近くの応接用ソファに行儀悪く膝を立てて背もたれを前にして見つめる。中也さんはまるで私のことなんて眼中になかった。
まあ、それでいいんだけど。
彼の部屋は想像通りとても整頓されていた。棚の本や資料は種類別に仕分けされて仕舞われ、机の上の書類も納期別にしていると言っていた。相当な几帳面さと真面目さが窺える。
しばらく彼や執務室を見物しながら過ごしていると、不意に一瞬だけ彼の気が緩んだように見えた。それを狙ってあのと声をかける。
『そろそろ一段落着いたんじゃありません? 休憩に珈琲淹れましょうか』
「! お、おう。気が利くな」
『どーも』
部屋の片隅にあるアンティーク調のチェストの上には、ご丁寧にもミル付きのドリップ式コーヒーメーカーが置いてある。
珈琲好きの祖母にのおかげでコーヒーメーカーの使い方は分かるけれど、ミル機能があるものは使ったことがなかったっけ。まあなんとかなるか。
ミルに豆をセットして自動挽きし、その間にペーパーフィルターをドリッパーに密着させる。挽き終えて粉になったものをフィルターに盛って二十秒ほど少々のお湯で蒸らした後、全て注いでスイッチを押した。
抽出を待つ間に奥にあるというキッチンの電子レンジでカップを温める。
「随分と手馴れてるな」
『おばあちゃんが好きなんです、珈琲』
一分ほどしてから取り出したカップをソーサーに置いて待っていると、少し経ってから抽出が終わった。カップに注ぐともくもくと湯気が上がる。
『ミルクと砂糖は?』
「いらねぇ。そのままでいい」
「...はい、どうぞ」
彼はありがとうと言って一口啜ると、味を確認するように少しの間味わってから半分ほど飲み干した。その様子にほっと息をついてから先程の長椅子へと戻る。
「昨日と比べて、随分と落ち着いてるな」
『そうですかね』
「澄ました顔で堂々として、感情が凪いだような目をしてやがる」
『気に入りませんか』
「別に。大して興味もねえよ」
資料と睨めっこして相変わらず視線も合わない中也さんの顔を見つめながら、興味無いついでに馬鹿話でもどうですかと口を開いた。
「馬鹿話?」
男が首を傾げて面を上げる。
『ああ、別にそのまんまでいいですよ。仕事しながら聞き流しても休憩のBGMにしてもらっても構わないので』
私の馬鹿らしい話、聞いてください。
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苗代(プロフ) - 斜陽族さん» コメントありがとうございます。最後の最後に一気に更新したので、急ぎすぎてしまった感じは否めませんが、そういって頂けて本当にありがたいです。環境がら多忙なことに変わりはありませんが、これからも作品を書き続けていくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2019年1月3日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
斜陽族 - 読み終わってとっても感動しました!こういう深いお話好きです。発想力があって尊敬してしまいます。これからも無理のない程度に頑張って頂けると嬉しいです! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 4feb0da943 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - マッキーさん» コメントありがとうございます。現在とても忙しい状況で、当作品も含め連載中の作品全て手がつけられていないのですが、そろそろ更新を再開していくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2018年12月26日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
マッキー(プロフ) - 更新頑張ってください! (2018年12月25日 22時) (レス) id: 0346650c4f (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - リツさん» ご丁寧なコメントありがとうございます。主人公の設定は私を自己投影して作成している面が大きいので、読者の方にそう言って頂けてとても嬉しいです。ぜひ最後までお付き合い下さい。 (2018年11月21日 17時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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