愛の終わり ページ21
身体が透けてきた。
アニメの中でしか見たことの無い演出に、私も自身の夢と現実の差が意識の中で明確になってきた。目の前の景色が全て、急に虚空のもののように思えてくる。
けれどもひとつだけ、たったひとつだけはっきりしないものがあった。
中原中也。
私の目覚めを後押しするその声と、表情と、姿と全部。
ただの夢の住人とは思えないリアリティがある。
だから最後に最後、期待を込めて力いっぱい叫ぶ。
だって、貴方は中原中也なのだから。夢の中の人だとしても今の私にとっての中原中也は貴方だから。
『欲しい言葉ばかり寄越さないでよ! なんで、なんで今になって、口説くようなこと言うの。寂しくなるのに、帰りたくなくなるのに。嬉しくて堪らないはずなのに、どんな顔をしたら良いのかわからないよ。その優しくて苦い言葉を全部宝物にして生きていけっていうの?!』
そんなの、酷いよ。中也さん。
言い終えた私は澄み切った笑顔をしていたと思う。
涙が一粒、つうと頬を伝って行った。
こんなことを言わせてくれて本当にありがとう。
「今の手前なら大丈夫だ。言いたいことを少しずつ、言えるようになれ。頑張らなくていい。頑張らなくても手前は、充分いい子だよ」
宝物を胸の奥に仕舞って、私は目を覚ます。無理して頑張る子を辞めて生きていくことを決めた。中也さんにしたように、本音を構いなくぶつけられるようになろうと。
帰りたくなくなるくらい幸せな世界にさよならをして、私は。
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「じゃあな、A。トリップなんてもんもうして来んじゃねえぞ」
消えた少女に安堵したようにため息をついた男が、扉の方へと視線をむける。きぃと音を立てて開いたそこには凭れ掛かる影がひとつ。
「これで良かったんですよね、首領」
「あぁ、異界の者は心残りなく元の世界に返してやる。それこそ重大な事態を引き起こさないための最適解だよ」
彼女の情報だって既に私たちが知り尽くしていることばかり。残念だけど、バタフライ効果なんてものは到底見込めないだろうね。
くつくつと笑う影はどこか楽しげだった。
「今回協力してくれた大切な元右腕くんにもお礼をしなければね」
闇夜に消える影とその背を脱帽して見送る男の絵は、
まさしくポートマフィアの在り方であった。
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苗代(プロフ) - 斜陽族さん» コメントありがとうございます。最後の最後に一気に更新したので、急ぎすぎてしまった感じは否めませんが、そういって頂けて本当にありがたいです。環境がら多忙なことに変わりはありませんが、これからも作品を書き続けていくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2019年1月3日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
斜陽族 - 読み終わってとっても感動しました!こういう深いお話好きです。発想力があって尊敬してしまいます。これからも無理のない程度に頑張って頂けると嬉しいです! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 4feb0da943 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - マッキーさん» コメントありがとうございます。現在とても忙しい状況で、当作品も含め連載中の作品全て手がつけられていないのですが、そろそろ更新を再開していくつもりなのでどうぞよろしくお願いします。 (2018年12月26日 11時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
マッキー(プロフ) - 更新頑張ってください! (2018年12月25日 22時) (レス) id: 0346650c4f (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - リツさん» ご丁寧なコメントありがとうございます。主人公の設定は私を自己投影して作成している面が大きいので、読者の方にそう言って頂けてとても嬉しいです。ぜひ最後までお付き合い下さい。 (2018年11月21日 17時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
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