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一節 六部 ページ42

「ふぅ………」

 夜中、ナオは自室からベランダに出て直ぐの椅子(ベンチ)に座り、夜風に当たっていた。

「主」
「あれ、クロ」

 そんな中、黒龍が突然現れたと思えば当たり前の様にナオの隣に座る。

「なぁに、寝ないの?」


 静寂


 お互い黙っていても気不味くないその空間はナオは結構好きだった。
 すると控えめに寄りかかってくる黒龍。其方を見れば、いつものクールな黒龍とはちょっと違って少し上目遣いで此方を見やる。所謂甘えたモードだ。

「なんだよ、可愛いなぁ」

 ナオはニヤけそうになる顔を抑えつつ黒龍の頬に手を伸ばすと黒龍はその手に擦り寄った。いつもと様子が違う黒龍にナオは少々不安感を煽られ、心配になった。

「どうしたの」
「……いや」
「なんでそんな泣きそうな顔するん」

 ナオは慰めるように黒龍の頭をゆっくり撫でると黒龍はぽつりと独り言のように呟いた。

「主が真っ暗闇に独り…とか、俺がさせないから」
「?」
「俺が主を独りになんてさせねぇ……俺が…俺が主を暗闇から守る…から……」

 まるで幼い少年が女性に言うような雰囲気のある台詞。
 黒龍はただナオが夜に独りでいる姿を見て、そのまま溶けて消えてしまいそうな気がして怖かったようだ。
 黒龍のその純粋で真っ直ぐな気持ちにナオは嬉しくなった。

「お前は優しいなぁ、いつもいつも……」

 愛おしそうに優しく優しく撫でてやると黒龍はその手を掴む。

「主はいつも、こういう時、俺の名前………呼んでくれねぇのな…」
「のわっ」

 黒龍はナオを優しく押し倒す。痛くないようにでも逃がさないように。
 突然の事にナオは驚き、動揺を隠せずにいるナオに黒龍は切なげな顔をしていた。

「主は独りじゃねぇ……から………お願いだから…俺を見て……」

 最後の方は掠れ、小さい声で黒龍は俯き言った。少し伏せられたその瞳は涙を溜めて、今にも零れ落ちそうで__

 ナオは知っている、黒龍の気持ちも、自分に向ける想いも、自分の胸の鼓動の音(己が感じている想い)も全部わかっている。

(黒龍、ごめんね)

 ただ、まだそれには蓋をしなくてはならない。
【主】として、皆に平等に愛を注ぐべき者として、黒龍の気持ちには答えられない。答えては、いけない。
 それを理解しているナオは今日も気付かない振りをする。その為に体を起こし、話を逸らした。

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作者名:宇宙ノ彼方 | 作成日時:2018年12月26日 11時

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