みえないモノをみる。 【文スト】

敵と己＿＿壱 ページ41

『いーち』



呑気な声がフィッツジェラルドの耳朶を叩く。それと同時に彼に襲い掛かった、極度の倦怠感。

溜まらず膝をついたフィッツジェラルドは、驚きに目を見張り凛を見ようと振り返る。凛は唇を薄く引き伸ばし、笑っていた。ただし彼女は、其処から一歩たりとも動いていなかった。


体から感じることと眼前の光景が一致せず、困惑するフィッツジェラルド。

そして。



『にーい』

「ッ……！」



まただ。今度は先程とは比にならない。倦怠感と一緒に頭痛──体調不良の特徴が同時に、それも過度にやってきた感覚。

体の内部が焼けるように熱い。だが外側は凍てつく程の寒さを感じる。これは、一体──。



『さ……ん？ あれ、もう終わりかい？ 組合の団長だっていうからもう少し凄いかと思ったのに……。仕方ない』



凛はハァ、とため息を吐いた。それと同時に体が元に戻る。手をついて立ち上がっても、先程のが再発することはなかった。

漸く一定になった心臓の音を聞きながら、フィッツジェラルドは凛を睨んだ。けれどそれも、先程よりも弱くなり──ちらつく恐怖。



『んー、お前如何やら異能使ってなかったな？ まあそれでも今のでdownするならダメダメだな。……さァて、私とこれ以上戦う御覚悟は出来たか？』



身長が低いが故に見上げる構図になる凛だが、その表情は余裕に満ち溢れている。

沈黙を最初に破ったのは。



「…………好きに、しろ」



フィッツジェラルドが噛み殺すように云った。

凛は笑みを返答として、パーカーのポケットに手を突っ込み廊下の奥へ歩いて行った。それが見えなくなるまで、フィッツジェラルドは立ち尽くしていた。



「……チッ」










長い廊下にある扉を開けては閉めてを繰り返していた私は、段々とつまらなくなってきていた。


あ、ちなみに先刻のは其処らにいた程度の低い死霊を引っ張って奴に憑着させただけ。急ごしらえで無理矢理だったし、レベルが低かったんだけど……、まあいいか。


そうやって歩いている私は、いつの間にか自分を見ていた動物がいたことに気づく。



何か、アライグマみたいな……、何だあれ。

取り敢えず私は、その子をひょいっと持ち上げて一緒に歩くことにした。

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