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90話 ページ41

『真ちゃん、ここ、…わかんないんだけど』


記憶の中で俺に向かって話しかける彼女はまだ中学校の制服を身にまとっていて
俺が横に座るとかなり座高の低い彼女は、甘えるように俺を見上げている


当時まだ子供で、何もメイクすらしていなかった彼女は
赤ちゃんのようなふわふわの肌に、高尾によく似た黒髪を束ねていた


「ちょっと、抜けるのだよ、鍵、預ける」


このまま終わって、いいわけない

バレンタインの時に気が付いたこの何か昔と変化した感情を、この1ヶ月間忘れることができなかった


「あ、はい!鍵…あずかりました!」


多目的室のドアを勢いよく開けた俺は、ワイワイ盛り上がる部員たちを背に
少し足早に歩き出す


『…和くんがね、』


なぜ俺は

チョコレートを受け取った時に彼女が発した言葉に少し苛立ちを覚えたのだろう



『今年のチョコはどういう意味だ』


なぜ、もう好きではない男の前で
そんな顔をする


最近やけに色っぽくなったとは感じていた
うっすら施されたメイクも、丁寧に整えられた毛先も

今は全て俺を動かす原動力になっている


階段を駆け上がると同時に自然に足が跳ねていき

だんだんと走り出す

「…っ、」


いく宛など、今は頭で理解すらしていない

しかしその足は止まることがなかった



音楽室のある3階にたどり着くと
すでに日の落ちて少し不気味な雰囲気を漂わせる廊下にチラホラと明かりがついていて
まだ残っている生徒の明るい声が響いていた

教室の並んだ廊下から足を踏み出した俺は真っ先に音楽室に向かっていて

俺が走り出したことでパッと自動で照らされる廊下をかけながら
ひとつずつ音楽室に目をやった


「…はぁ、っ、…はぁ、」


するとひとつだけ明かりがドアの下から漏れた部屋を発見し
走っていた足を緩めながらゆっくりと近づく


だんだんと聞こえてくるドアの向こうの楽しそうな声に柄にもなく心臓が騒ぎ始め
ゆっくりと深呼吸をした


勢いで来たものの

何を言えばいいんだろう

友達と話しているところを連れ出しても、きっとよくない印象がつくだけだろう

さっきまでそんなこと考えずに一目散にかけてきたくせに、そんな余計なことが頭をよぎってまた少し頭痛がして


俺はそんな思いを振り払うように勢いよくドアを開けた

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りん(プロフ) - ぱなおさん» メッセージいただいたら書くしかねぇ!ってなりました!この小説はサクッと終わる予定なのでサクッと書きますね笑最後までお楽しみいただけたら嬉しいです! (2021年4月5日 9時) (レス) id: 6b9a318112 (このIDを非表示/違反報告)
ぱなお(プロフ) - りんさん» わー!!返信嬉しいです、更新もありがとうございます( ; ; )いつまでも待ち続けますので無理せずに更新してくださいね!!( ; ; ) (2021年4月5日 0時) (レス) id: a37a5acae8 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - ぱなおさん» ぱなおさんありがとうございます( ; ; )最近リアルが鬼忙しくて投稿が滞っておりますが、終わる気はさらさらありませんので頑張って書きます!!これからもよろしくお願いします( ; ; ) (2021年4月4日 10時) (レス) id: 6b9a318112 (このIDを非表示/違反報告)
ぱなお(プロフ) - 最高すぎて一気読みしました!!続き待ってます( ; ; ) (2021年4月4日 1時) (レス) id: a37a5acae8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りん | 作成日時:2021年3月4日 11時

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