激情【壱】 ページ23
下弦の伍も、私が縄張りに入ったことに気づいているはずだ。鬼は傲慢で弱者を弄ぶが、本能的に上だと感じる者には手を出さない。鬼狩りと遊んでいるのか、それとも傍観しているのか、どちらにせよ飛び火する以外に危害は加えられないだろう。追い払った白い蜘蛛もあれから纏わりついて来ない。
貴「…騒がしい」
山に入る前、この辺り全域に血鬼術を漂わせた。そのおかげで、何処で何をしているのか大まかに分かる。分かりすぎるのも鬱陶しいと思っていたが、こうもあちこちで物事が起こると感覚が痛い。
近くでガサガサと茂みを掻き分ける音、新鮮な血のにおい、覇気も生気も感じない物体が何人もそこに立っている。成りは鬼狩りそのものだが、淀んだ目と異常な方向に曲がった四肢を見て全てを察する。殺された鬼狩りが、鬼の道具として操られているのだ。
貴「(下弦の伍は、山に入られたことが随分とご立腹らしいな…。小賢しい真似を…)」
蜘蛛でどうにかならなかったからと死んだ人間を利用し、自分では直接手を出さずに始末しに来る。卑劣、姑息、弱者がよく使う手、気に食わない。
貴「死者を冒涜するとはな……累…」
私は鬼だ。人間を喰らい、人間の夜を支配する生物。だが、命尽きた人間をこうも無下に扱い玩具のように弄ぶなど言語両断。この山の鬼共は、根本的に私のやり方と合わないらしい。戦いとは、一対一で正々堂々向き合い勝利を得るもの。これが私の自論で他に通用しないとしても、それを貫く性分だ。
貴「…"晦冥・防ノ型"」
操られた鬼狩りを霧の中に閉じ込める。それは檻のような役割をしており、対象を閉じ込める他に攻撃をいなすこともできる。多数の身動きを封じるには、これほど適した術はない。
貴「…何故、私はこうもお前に怒っているのだろうな…下弦の累よ…」
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◾お詫び
これから少し更新速度遅くなります。今でも十分遅いのですが……申し訳ありません。
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