鬼の首魁【弍】 ページ18
貴「なんと言えばいいのか…分かりませんが、この肉体が奴等を殺すことを拒否して…」
今度は脚を斬られる。体勢が崩れるが、みっともなく崩れるわけにはいかない。手をついて立て直す。
無「それは貴様の意思が緩いだけだ。私は貴様に充分な血を分け、私の意思を伝えている。だが貴様は私の血に応えない、人間を殺さない、貴様ほど役に立たぬ鬼が力を持ったところで害にしかならん」
貴「(……これは、殺されるか)」
この方に逆らい牙を剥く気はないが、鬼狩りを殺し回るのは理に叶わない。降り掛かる火の粉を払うだけで、静かに過ごすことを…無惨様は望まれていない。人間を喰らい更に力を付け、役に立つ駒にならなければならない。そう、頭では分かっている。
無「貴様に利用価値が無ければ、今ここで殺している。私の役に立て、人間を殺さないにせよ…貴様は不快にも力を付けている。私の知らぬ所でだ」
貴「無惨様…私を見逃すのですか？私は貴方様の…」
視界がズレる。右目と左目の視点が合わず、どちゃっと地面に落ちる。顔を触ろうにも動かない、転がる目玉から見えるのは切り刻まれた自分の体。今の一瞬で、無惨様は私の体をバラバラにしたのだ。これがお咎めか？治癒が進まない、早く元の状態に…。
貴「ぐ……くっ…」
再生能力には自信がある。血は使うが、上弦ノ参にも劣らないはずだ。痛む、鬼狩りに斬られるよりも苦しい。この方を怒らせれば、私など一瞬で死んでしまう。未熟…無能…、私はどこまで醜態を晒すんだ。
◻「その者は…私の元で管理しております…」
貴「お前が私のことを庇護する必要はない…。私を庇えば、お前の臣下としての価値が…」
再生した方口を開いたが、ﾍﾞﾝｯと琵琶の音と共に景色が変わる。まだ城の中、追い出されていない。情けをかけられ生き延びたことは喜ぶべきだが、あの男庇護されてしまった。情けない、恥を晒した。
◻「……お前は、修練が足りぬ…。研ぎ澄ます物は幾らかあるが…いつまでも未熟なままだ…」
貴「お前に言われなくとも、自分が未熟なことは理解している。故に、私はお前に教えを乞うたのだ」
この者の技を見て、私は心底美しいと思った。自分の技に足りない物を補えるような気がして、直感的に盗みたいと感じたのだ。馬鹿正直に力を求めることを、この者は拒否しなかった。それどころか、己の技を教えた。武に対しての志が高かった。
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