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｢司さま、私と婚約しませんか？｣
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は？と声が漏れる。
ニコニコと笑いながらそう提案してきたのは千賀家のご令嬢、千賀葵。
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今から大体2年前、中学2年生のころ。
いつも通り参加した社交場で挨拶を交わしたすぐ後、葵さんはそんなことを言い出した。
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｢申し訳ないですが、そういったことはお断りしてるんです｣
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突然のことに驚きつつもいつも通り、笑顔を作ってそう告げる。
これは嘘ではなく事実。
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……当時からAさんのことが好きだということを自覚していた私は父に婚約話はお断りするようにお願いしていたのだ。
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格上の家ならまた考えなければならなかっただろうが、千賀はほぼ同格。
断ってもあまり影響はないだろう。
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｢別にただで婚約しようって訳じゃないですよ｣
｢……？｣
｢これは契約です｣
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突拍子もない話につい訝しげに眉を顰めてしまう。
…怪しい、怪しすぎる。
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断ったのに何故そんなにニコニコしているんだろうか。
……というか、契約ってなんだ。
不安げな私をよそに葵さんは話を続ける。
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｢この婚約は2年だけ待っていただければいつでも破棄してもらっても構いません。それから、…私に出来ることでしたら司さまが望むことを1つ叶えましょう｣
｢……そんなことをして、あなたに何の得が？｣
｢父がうるさいんです。どこかのご子息と婚約しろってね。私は恋愛結婚したいし、そもそも会社だって継ぐか悩んでるのに。でも、父を完全に黙らせるためには準備が必要なんです。そのために2年間誰かと婚約したい｣
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急に真顔になった彼女の真剣な眼差しが痛い。
確かに、……条件としては良いものかもしれない。
でも、どうして私なのか。
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｢北条A｣
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悩んでいると、突然聞こえてきた聞き覚えのある名前にバッと顔を上げる。
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｢…どうしてその名前を｣
｢ちょっとあなたのこと調べさせてもらいました。お付きのメイドと随分仲がいいみたいですね。……婚約を断り続けるのも無理があるでしょう。いつか格上の家から申し込まれるかもしれない｣
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グッと声が詰まる。
トドメのように、葵さんは笑った。
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｢彼女を守るためにも、手段は増やしておいた方が得策だと思いますよ｣
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結局考えて考えて私が出した結論は、
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｢…分かりました。父が許可したら婚約しましょう｣
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