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Aの容態が落ち着いた頃、雷門の7番君が10番……稲森明日人へとロングパスをしている所だった。
ダイレクトなパスは稲森君へと繋がり、そしてシュートが決まった。
2-0
点数が加わったと同時に試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「あの監督は何者なんだろう？」
「過去のサッカーの記録にあの者の記述はありません」
「じゃあ、これから名を残す事になるのかな？」
「しかし野坂さん。貴方がそれを気にする必要はないでしょう」
ベンチに集まり、お互いに勝利を喜び合う雷門イレブンを見つめる。
……勝っただけなのにどうしてあんなに喜べるのだろう。
「誰であろうと戦術の皇帝と言われる貴方の前には、為す術無く崩れ落ちる事になる」
「……ああ」
これ以上ここにいる理由はない。
僕達の会話に一切入らずフィールドをボーッと見つめていたAに「帰るよ」と声を掛けようとした。
「＿＿＿おめでとう、雷門」
「……何か言ったかい？」
「え？ ……何か言っていたかな」
……無意識だったのだろうか？だが、確かに耳に入った。幻聴じゃない。
今Aは確かに雷門に祝福の言葉を送っていた。どうやら本人に自覚はないようだけど。
「A、そろそろ帰ろうか」
「分かった」
Aは席を立ち、僕と西蔭の後ろを歩いた。
チラッと彼女の様子を窺うが先程の異変は何処にも見当たらなかった。
まるで最初から何もなかったかのように……。
「……もしかしたら、彼女も
しかし、何故彼女が王帝月ノ宮に来る必要があった？
そして……今更
その理由を知るには本人に問いただすしかないのだが……。
「……？」
視線に気づいたのか、Aは光のない瞳でこちらを見上げた。
……今の彼女の中にその理由があるとは思えない。
記録の中に映っていた表情豊かだった彼女が、今では表情筋一つも動かない程に感情を表さなくなった。
知っているであろう元チームメンバーの必殺技を見た瞬間、苦しみ出したこと。
「……もう少し調べる必要がありそうだ」
少しだけ定着してきた彼女の口調を思い浮かべながら、帰路を辿った。
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作者名：恵野 | 作成日時：2021年6月6日 0時
