宮廷絵巻ノ抄

9.Ki ページ10

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紫宸殿(ししんでん)・南庭ーー。


桜を愛でる春の宴が開かれる紫宸殿に、続々と招待された貴族や宮家の客人が訪れる。


内大臣「宏光、先日はお手柄だったみたいじゃないか。お前が東宮殿下の覚えめでたき存在になれば、我が北山家も安泰だ」


俺が宮中で宿直をしたあの夜から、父上はご機嫌だ。

…というのも、話は全てあの夜まで遡る。




内大臣「おぉ、これは藤ヶ谷殿…」


その名に、ドキッとした。

太政大臣「これは、北山殿。今夜は桜の花を愛でるには、最高の日和ですな？」


視線を上げると、向かい側の渡殿から数人の従者を付き従えた太政大臣の姿が見えた。

そのすぐ後ろに控えるのは、藤ヶ谷…あの宿直の夜以来、6日振りにその姿を目にした。



結局、あの夜侵入者を追った藤ヶ谷たちは、その姿を捕らえるコトは叶わなかった。

俺に至っては、藤ヶ谷の命令で梨壺の建物内にいたせいで、侵入者の追捕どころか一番安全な場所にいたと言ってもいい。


宮中内で侵入者を取り逃がしたのだから、俺たち宿直に従事していた者たちへの責任追及は免れない…そう覚悟を決めていたが、何のお咎めもなかった。

むしろ…


T「この身が無事だったのだから、北山を始めとした藤ヶ谷たち宿直の者は、何ら責めを負う立場にはない」


命を狙われた東宮本人にそう言われてしまっては、もはや今上帝以外は何も言えやしない。

事件は、東宮の身辺警備の強化だけで不自然に収束した。




T「ねぇ、ミツ…」


あの夜、俺は東宮殿下の寝所に朝まで一緒にはいなかった。

清涼殿に使者が放たれ、今上帝自ら梨壺を訪れる事態になったのだ。

息を切らせて現れた今上帝…そのお姿は、闇夜の中で、まるで未来の藤ヶ谷を見上げているようだった。


T「ミツ、次の春の宴の夜…頼みがあるんだ」






今上帝が上座に着き、東宮殿下、その妃達、宮家…と続いて、官位の役職順に貴族たちが席に着く。

やっと宴に呼ばれる官職の俺なんかは末席もいいところで、だから今夜も遠目に眺めるしかない。

しかし、宴が始まってすぐのコトだ。


2「なぁ、ミツ。今、東宮様…こちらを見てなかったか？ 俺か⁈」

俺の隣席にいた二階堂が、変なコトを口走った。

S「まさか、東宮様がニカなんか見るかよ⁈」


そんな時だった。


スッ…


女官「こちら、北山様宛です」


手元の板張りの床に、差し出された懐紙…お印を見て、息を呑んだ。


それは、東宮殿下からの文だった。

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